2007年5月5日(土)「しんぶん赤旗」

グローバル化のなか

欧州の労働運動(下)

「底辺から」の格差是正


 多国籍企業は、欧州各国間、欧州とその他の地域の経済的格差を利用して、より低い賃金、より劣悪な労働条件の「底辺に向けた競争」に労働者を駆り立てています。これに対して、欧州の労働者は、「低い層の底上げ」によって格差を最小限にし、自らの生活を守ろうとたたかっています。

英仏の違い挙げ

 「英国内の産業では、この十年で百万人以上の雇用が失われた。この傾向はさらに悪化しつつある」。一月八日、英製造業労組アミカスのシンプソン書記長が訴えました。同日、仏自動車大手プジョー・シトロエンのイングランド中部コベントリー工場の閉鎖が決まったことを受け、労働者を使い捨てにする多国籍企業に警鐘を鳴らしたものでした。

 英国では、サッチャー政権(一九七九―九〇年)によって進められた新自由主義政策で労働者の権利が弱められ、生活が破壊されました。多国籍企業は、安上がりで使いやすい労働者を求めて英国に進出し、用がなくなると簡単に解雇してきました。

 こうした中、プジョー・シトロエンが二〇〇六年四月十八日、コベントリー工場を閉鎖し二千三百人を解雇すると発表したのでした。労働者は解雇撤回と工場存続を求めてたたかいましたが、最終的に阻止することはできませんでした。

 しかし、この闘争を通じて今後につながる新しい運動が生まれました。フランスやドイツなど他の西欧諸国と比べて劣悪な英国の労働条件に焦点を当て、格差の克服を求める運動です。アミカスは、コベントリー工場閉鎖発表後、フランスで従業員五十人以上の企業で大量解雇される場合、補償措置が義務になっているのに、英国では義務付けられていないことなど、十項目にわたって英仏の違いを挙げて、英国の貧弱な労働法制とそれを認める政府を告発してきました。

東欧のたたかい

 〇四年以降に欧州連合(EU)に加盟した東欧諸国では西欧のEU加盟国に比べて賃金がいまだに低く、格差は極めて大きいままです。しかし、これらの国では、賃金の上昇が顕著です。その背景には、低賃金や劣悪な労働条件の押し付けを許さない東欧労働者のたたかいがあります。

 「国民は、より社会的に公正なスロバキアへの願いを表明し、富裕層と貧困層の連帯や痛みの少ない市場経済を求めた」。昨年末、スロバキアのフィツォ首相が地元紙への寄稿で同年六月の総選挙を振り返りました。

 総選挙では、ズリンダ政権の新自由主義路線を批判するフィツォ氏率いる中道左派政党「スメル」が躍進。同年七月に誕生したフィツォ政権は、子どもを持つ家庭への支援増額など、福祉国家づくりに力を入れてきました。

 同政権は同時に昨年十月、労働者が強く求めてきた最低賃金を六千九百スロバキア・コルナ(約三万四千円)から七千六百スロバキア・コルナ(三万七千円)に引き上げました。

 EUの統計局であるユーロスタットによると、企業が一人当たりの雇用に支払う労働コストは、多国籍企業が相次いで進出している地域で特に上昇しています。

 チェコ、ハンガリー、スロバキアの〇五年の毎月の労働コストは、それぞれ、九百五十四ユーロ(約十五万六千円)、九百四十四・三ユーロ(約十五万四千円)、七百・五ユーロ(約十一万四千円)です。いずれも、EU二十七カ国平均の三分の一に満たないものの、一九九六年の二倍以上となっています。また、ポーランドの〇五年の労働コストも、八百十八・二ユーロ(約十三万四千円)で、九六年からほぼ倍増しています。(ロンドン=岡崎衆史)(おわり)


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