2007年5月2日(水)「しんぶん赤旗」
グローバル化のなか
欧州の労働運動 (上)
国境超えた連帯と支援
グローバル化による国際競争の激化を理由に人員削減や工場閉鎖、劣悪な労働条件や低賃金を押し付けようとする多国籍企業。その横暴な振る舞いは、世界で最も手厚い労働者保護法規や強力な労働組合を持つ欧州でも目立つようになっています。欧州の労働者は、「労働者間の連帯」を強めながら、対抗しつつあります。(ロンドン=岡崎衆史)
三月十六日、南仏トゥールーズ。欧州四カ国が出資するエアバス本社前に、約七千人が集まりました。同社が二月末に発表した四年間に計一万人を削減する大リストラ計画に反対する労働者の抗議集会でした。「欧州一斉行動」と銘打ったこの日、ドイツの主力工場があるハンブルクで二万人、スペインの七カ所の工場・営業所で七千人がリストラに抗議。英国でも昼休みを利用して労働者が集会を開きました。トゥールーズ本社前に集まった労働者の中には、「連帯」を示すためドイツと英国から駆けつけた人もいました。参加者に仏労組「労働者の力」のクネペル代表が訴えました。「行動は、私たちの確固とした決意と連帯を証明する強力な象徴だ」
共同行動で反撃
国境を越えて展開し、労働者同士を競わせ、敵対させることでより多くの利益を得ようとする多国籍企業に対して、欧州の労働者は「労働者の連帯」を正面に掲げ、共同行動をとることで反撃してきました。
欧州最大の自動車メーカー・独フォルクスワーゲン社が昨年、ベルギー・ブリュッセルのフォレスト工場での人員削減を発表した際、労働者への連帯と支援は、欧州連合(EU)を巻き込んで広がりました。
昨年十一月末、フォルクスワーゲン社は、同工場の労働者五千三百七十人を、千五百人に削減すると発表。労働者は、すぐにスト入りするとともに、昨年十二月初めにはブリュッセルでデモを行いました。デモには、ベルギー以外からの労働者も含めて、約二万五千人が参加しました。
EUを巻き込み
EUの主要機関が密集するため「EUの首都」ともいわれるブリュッセルでの大リストラへの衝撃と、労働者の徹底したたたかいがEUを動かしました。
欧州議会の雇用社会問題委員会は、人員削減発表の翌日、「産業改編によって生活を脅かされる労働者に連帯を表明する」声明を採択。また、同年十一月末の欧州議会本会議では、各政党やEUの執行委員である欧州委員からも、リストラを懸念し、労働者に連帯する発言が相次ぎました。シュピドラ欧州委員(雇用・社会問題担当)は、「数千の労働者と家族にもたらされる潜在的帰結に懸念を表明する」と発言。同欧州委員は、ベルギーのフェルホフスタット首相とともに、当事者の話を聞き、争議解決に向け尽力しました。
一月七日まで約七週間にわたってストを貫いたフォレスト工場の労働者のたたかいは、小さくない成果を生み出しました。労働者は、人員削減を撤回させることはできなかったものの、その規模を縮小させ、退職を余儀なくされる労働者への保障措置を充実させることに成功。十二月末の労使の大枠合意では、失業手当と現在の給与の差の穴埋めや、当面約二千二百人、〇九年からは約三千人の雇用が保障されることが盛り込まれました。補償額の規模について、ルーベン・カトリック大学労働科学研究所のデルフィーヌ・ロシェ氏は、欧州労使関係観測所(EIRO)のウェブサイト掲載の論文で、「ベルギーでは歴史的な高さ」と評価しました。
他方、エアバス社の労働者のたたかいは今も続いています。労働者は、四月に入ってフランスで二度ストを行うなど、運動をいっそう強化しつつあります。(つづく)