2007年4月30日(月)「しんぶん赤旗」
社会リポート
右翼・暴力団関係者の産廃不法投棄
県が事実上放置
栃木・足利山砂採取場
現場から有毒ガス
“日本最古の総合大学”といわれる「足利学校」の町、栃木県足利市が、山砂採取場で起きた硫化水素ガス中毒被害で揺れています。住民と日本共産党の再三の告発を黙殺、右翼・暴力団関係者の産業廃棄物の不法投棄を事実上放置してきた栃木県や警察の責任が問われています。
「うわー、逃げろ」。冨宇賀(とみうが)利行さん(63)は、鼻と口を手で押さえながら叫びました。卵が腐ったような強いにおいが黒色土からわきあがってきたからです。
激しい下痢とおう吐・鼻血
冨宇賀さんが経営する建材会社が所有する足利市松田の山砂採取場の一角をブルドーザーで掘削したときのことでした。この採取場には「産廃が大量に不法投棄されている」との疑いが持たれていました。
山砂採取場は、一九九九年に右翼・暴力団グループに建材会社ごと乗っ取られました。冨宇賀さんは乗っ取りグループからの脅迫に屈せず、日本共産党にも協力を求めながら東京高裁で「明け渡し」裁判をたたかい、二〇〇六年に勝訴。乗っ取りグループは控訴しましたが昨年七月、最高裁で冨宇賀さんの勝訴が確定しました。
同グループは乗っ取り直後から採取穴に産業廃棄物の大量投棄をはじめました。
採取場を取り戻した冨宇賀さんは、「不法投棄の証拠をつかむ」と断続的に掘削しています。卵腐臭が襲った現場からは昨年十一月、環境基準値二倍のヒ素が検出されています。
卵腐臭をかいだブルドーザーの運転手など現場にいた関係者は急いで避難したものの、頭痛とのどの痛み、激しい下痢とおう吐に襲われ、鼻血が止まりませんでした。
東京労災病院の中毒診療科を受診した結果、「硫化水素ガス中毒疑い」。診察した医師はこう警告しました。「もう一度硫化水素ガスを吸引したら生命にかかわる」
乗っ取り関係者は硫酸ピッチなど危険な産廃の不法投棄を“業”としています。硫酸ピッチは、重油から軽油を不正に密造する過程でしか生成されず、タールや硫酸からなる有毒物です。
正常に処理するにはドラム缶一本あたり十万円以上が相場とされています。不法投棄による利益は莫大(ばくだい)です。
日本共産党は現地調査を重ね、乗っ取りグループによる不法投棄問題を国会でも取り上げました。同グループによる東京の水がめ、利根川河川敷(群馬県太田市)への有毒物質の大量投棄問題を追及、警察庁もその容疑を認めました。
これには自民党の谷津義男衆院議員秘書(当時)が、河川敷への進入路整備で乗っ取り関係者からの「『なんとかならないか』という話を県土木事務所に伝えた」と“口利き”した事実を本紙の取材に答えています。同河川敷への不法投棄をめぐっては関係者の一人が不審死。投棄現場では産廃行政にかかわる栃木県鹿沼市幹部を拉致(らち)、殺害した実行犯の一人が目撃されています。
街宣車を動員圧力をかける
冨宇賀さんは採石許可権をもつ栃木県に「乗っ取りグループに採石許可を出すな」と再三要請してきましたが、県は許可を出し続けました。
背景があります。採取場の上流の松田ダム建設をめぐって、県は冨宇賀さんの建材会社が森林を無断で伐採、ダム建設の工事残土を不法投棄した、との疑いをかけたのです。
後日、別業者のしわざと判明、県は“わび状”を書きました。乗っ取りグループが同文書を入手、街宣車を動員して県に圧力をかけました。なぜか県は乗っ取りグループの言いなりに「採石許可」を出してきたのです。
採取場に「三百本をこえる(硫酸ピッチの)ドラム缶が並んでいるのを見た」という地元町会関係者の証言もあります。
足利市松田町の三和地区自治会連合会は三月三日、八自治会長連名で県知事などに産廃不法投棄による環境汚染の調査と対策を求める要望書を提出しています。近く同趣旨の住民署名も提出する考えです。