2007年4月28日(土)「しんぶん赤旗」
改憲手続き法案
不公正な仕組みこんなに
矛盾噴出で答弁不能
九条改憲と地続きの改憲手続き法案が参院で重大局面を迎えています。自民・公明の与党は、連休前の採決こそ断念したものの、5月中旬にも成立させようと狙っています。しかも、法案には国民が望まない九条改憲案を押し通すため、不公正・反民主的な仕組みが「これでもか」と盛り込まれています。同時に、そのために矛盾も噴出、答弁不能に陥る事態も生まれています。徹底審議・廃案に向けて、あらためて法案の矛盾や問題点をみておきます。
憲法審査会
改憲スケジュール促進
九条改憲の条件づくりという法案のよこしまな狙いは、ますます明らかになっています。
安倍晋三首相は二十四日に東京で開かれた「新憲法制定推進の集い」で「私が自由民主党総裁として約束した以上、憲法改正を必ず政治スケジュールに乗せていく」とのべ、改憲手続き法案が自らの「改憲スケジュール」の一環であることを改めて鮮明にしました。
実際、法案には「改憲スケジュール」を促進する仕組みが盛り込まれています。改憲原案を審査できるとして国会に設置する「憲法審査会」です。与党は、同審査会での改憲原案の審査を「三年間凍結」するとしていましたが、「三年の間に骨子案あるいは要綱という性質のものが整理される」(自民党・保岡興治衆院議員、二十六日)と言いだしています。法案が成立すれば、国会で堂々と改憲案の議論を開始しようというのです。
安倍首相のめざす改憲が「海外で戦争する国づくり」を狙ったものであることもいよいよ鮮明です。訪米前の二十五日には、海外での武力行使を可能とする集団的自衛権の行使容認に向け有識者懇談会を設置。明文改憲の前にも政府の憲法解釈変更を狙っています。
法案提出者である自民党の船田元衆院議員は、「憲法審査会」でも、集団的自衛権の行使に関する解釈見直しについての議論が「九条に密接にかかわるものとして当然行われる」(十八日)とのべています。
公務員規制
対象示さず「3年検討」
国民の自由な運動はがんじがらめに縛りながら、カネにあかせた改憲宣伝は野放しにする―法案にはこうした考えが貫かれています。
運動抑圧の最たるものが、「地位利用」を口実にした公務員・教育者の国民投票運動の禁止です。なぜ、公務員・教育者だけ対象なのか、与党は憲法上の根拠も示せず答弁不能に陥りながら、禁止に固執しています。
しかも、何が「地位利用」にあたるのかも、極めて不明確です。与党議員からも「あいまいな表現」「拡大解釈のないように」との懸念が示されるほど。懲戒処分の対象とされており、教員や公務員への委縮効果は絶大です。
公務員には、公務員法上の政治活動規制もかぶせられます。
与党は「純粋な意見表明や勧誘行為は保障する」などとし、「法律が施行されるまでの間(三年間)に、必要な法制上の措置を講ずる」としています。しかし、なにが禁止・処罰の対象とされるのかが決まっていないというのは、法案の根本的欠陥です。
しかも、その標的は「組織的な署名運動、示威運動、あるいは政党・政治団体の機関紙の配布を伴う場合」(自民党・葉梨康弘衆院議員)です。「九条改悪反対」という日本共産党や労働組合のビラ配布が広く処罰される恐れさえあるのです。
法案が「国民主権を実現するもの」などという改憲派の言い分がでたらめなことは、この主権を封じる仕組みだけでも明白です。
有料CM
与党も「財力で不平等」
「憲法をカネで買う」と批判が集中しているのが、改憲派に有利な有料のテレビCMです。投票日の二週間前まで、いくらやってもいいことにしています。
テレビCMは、ちょっとしたスポットCMでも四億から五億円かかるといわれています。「お金をたくさん用意できる側が、圧倒的に有利になる」(コラムニストの天野祐吉氏、「朝日」〇六年五月二十二日付)のです。
潤沢な資金力をもつ日本経団連は、改憲の旗振り役をしています。自民、民主、公明などの改憲政党は、ばく大な政党助成金(三党で約三百億円)を手にしています。
財界の資金や国民の税金で改憲CMが垂れ流される事態を生じかねないと危ぐされています。
日本共産党の追及に、与党提出者も「財力の多寡による不平等が生じる恐れがある」(葉梨衆院議員)と認めざるをえなくなっています。
広報協議会
改憲派が牛耳り「中立」?
法案には、国民への広報を改憲派が圧倒的多数を占める機構で行う仕組みも盛り込まれています。国会に設置される広報協議会です。
改憲案を発議する国会は、いわば国民から「審判」をうける立場です。それなのに、発議後の広報を、第三者機関ではなく、発議した当事者が行うのでは、公正・中立性に疑念が生じます。しかも、その構成は「各会派の所属議員数の比率」で決め、必然的に改憲派が三分の二以上を占めることになります。
テレビ・新聞などでの政党の無料広報枠も、この広報協議会が取り仕切ることになります。
枠の配分について、法案提出者は“賛否平等”を強調しています。しかし、まず広報協議会の「広報枠」があり、「その残余の部分」で、賛成意見と反対意見を対等に扱うというだけです。
それぞれが同じ比率だとしても、国民の目の前には賛否の意見が二対一の割合で、広報され続けるのです。
また、政党は、枠の一部を指名する団体に使わせることができるとしていますが、これでは政党が主役で、国民はわき役扱いです。主権者は誰なのか、法案には根本的な前提が欠落しています。
最低投票率
導入拒否の根拠言えず
法案で最大の問題点の一つは、ごく少数の有権者の賛成でも改憲案が承認されてしまうことです。
承認要件である「過半数の賛成」が最もハードルの低い「有効投票総数の過半数」となっているため、仮に投票率が四割にとどまった場合、無効票をのぞけば、有権者のわずか一割、二割台の賛成でも改憲案の承認とみなされます。法案提出者も「おかしい」(公明党・赤松正雄衆院議員)と認めざるをえません。
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しかも、一定の投票率に達しなければ投票自体を無効にする最低投票率の規定もありません。「朝日」(十七日付)の調査では、「投票率が一定の水準を上回る必要がある」が79%。「毎日」(二十三日付)では「憲法改正の国民投票、低投票率なら無効でいいと思う」が74%です。それなのに与党は憲法九六条に明文規定がないなどを理由に、導入を拒否しています。
しかし、法案には、憲法に規定されていない改憲案を通しやすくする仕組み(発議にかかわる両院協議会など)が盛り込まれています。一方は、憲法に書いていなくても改憲案が通しやすくなるなら盛り込み、片方は「改憲が難しくなる」からと拒否する―究極の「ご都合主義」(日本共産党の仁比聡平参院議員)です。仁比氏の追及に拒否する憲法上の根拠も示せず、提出者は答弁不能状態です。
与党は、「最低投票率を設けると改憲反対派のボイコット運動を誘発する」といいますが、岩国基地をめぐる住民投票のように、筋の通らないボイコット運動を起こし、ひんしゅくをかってきたのは、与党の仲間です。
諸外国では
諸外国では、国民投票に、最低投票率などの投票率要件を設けている例があります。
例えば、韓国では、有権者の50%以上が投票しなければ国民投票そのものが無効になります。
英国では、有権者の40%が賛成しないと国民投票が成立しないというルールを設けています。
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