2007年4月12日(木)「しんぶん赤旗」

改憲手続き法案 疑問噴出、回答不能

もう廃案しかない


 自民、公明の与党は、改憲手続き法案を週内に衆院通過させようとごり押ししています。しかし、法案はこの間の中央、地方の公聴会(三月二十二、二十八日、四月五日)でも九条改憲の条件づくりという狙いとともに、「国民不在の国民投票法案」などと内容面でも厳しい批判を浴び、法案提出者はまともに答えることもできない「ボロボロ」状態です。こんな法案は廃案しかありません。


衣の下によろい

中立的な装いで改憲まで

 「手続き法という衣の下によろいが隠されていないか」―公聴会では、こんな懸念の声が出ました。安倍首相が九条をターゲットに、「任期中の改憲」を掲げ、そのための第一歩として改憲手続き法案の今国会成立を位置づけているからです。

 公聴会でも首相の口出しについて「中立的な装いのもとに、いずれ憲法の基本原理をなし崩しにする改憲まで至るのではとの危ぐを禁じえない」(庭山正一郎弁護士)「安倍首相が改憲を声高に唱えている現在、改憲本体と手続き法を別途に論ずることはできない」(森川文人弁護士)などの批判が相次ぎました。

 また、「注目すべき違憲発言。九九条(憲法擁護義務)だけでなく、九六条(改正手続き)違反だ」(吉田栄司関西大教授)という「憲法学界の見方」も示されました。

 日本共産党の笠井亮議員が「公正中立なルールづくりという法案提出時の趣旨説明から違う状況になっている」(三月二十九日)として法案の「撤回」を迫ると、自民党議員が苦し紛れに「安倍さんも一人の国民として発言している」などと発言。傍聴席からも「施政方針演説の中身じゃないか」と失笑がもれ、笠井氏は「国民はだれもそんな説明は納得しない」と批判しました。

最低投票率

“規定なし”に批判が次つぎ

 法案の中身でも「改憲案を迅速に通すために、障害の少ない、民主的な要件を満たさずに改憲案可決をもくろむ意図があからさまだ」(森川氏)との批判が出ました。

 なかでも、一定の投票率を超えないと成立を認めない最低投票率の仕組みがないことには、「ごく少数の国民の意思で憲法改正が行われてしまう恐れがある」(馬場泰・新潟県弁護士会会長)との問題が指摘されました。しかし、与党も民主党も「最低投票率の制度はボイコット運動をもたらす」と繰り返すばかり。「憲法の重みを確保できない」「なりゆき任せで無責任」という疑問にも答えられていません。

 また、「ボイコット運動も、主権者の意思表示の一つ」という反論にも、まともな「回答」はありません。

 自民党の愛知和男議員は新潟公聴会で「最低投票率のことをだいぶ大勢の方がいわれたが、投票率が低い場合を想定するのは国民に対して大変失礼な話」などと発言。公述人から「『失礼だ』などというのなら、最低投票率を設け、それを悠々超えた形で憲法改正を堂々行うべきだ」(馬場氏)とぴしゃりと反論されました。

 しかも「過半数」については、与党案も民主党案も「有効投票の過半数」という立場。一番ハードルの低いこの組み合わせでは、40%の投票でも大量の白票や棄権票が出た場合、「有権者の一割そこそこの人間によって日本が海外で戦争する国になるということもありうる」(藤尾彰・新潟大名誉教授)と、指摘されました。

公務員の活動禁止

規制強化は「唐突」自民議員も認める

 与党は「修正」案で、公務員の政治活動禁止の規定を国民投票運動にも適用する方向に急転換しました。公聴会では「突然規制強化になって驚いた」、「どうしてか聞きたい」という質問が続出。自民党の船田元議員は、「ビラの配布や機関紙その他の活動を自由にしていいか」(三月二十九日)などとのべ、労働組合や市民団体などの活動を規制の標的にする姿勢を露骨に示しました。

 これに対して、「数百万といわれている公務員、教育者の活動を封じた形で果たして本当に自由な憲法に関する議論が行われたといえるのか」(馬場氏)「憲法が変えられようとするとき、憲法に深くかかわってきた公務員にこそ自由闊達(かったつ)な意見表明を認めるべきだ」(地方公務員・松繁美和さん)などの批判が集中しました。

 改憲派は、手続き法を「主権者の権利を確立する」ものなどといいますが、主権者として憲法改正にかかわろうとする行為を、「公務員」というだけで大幅に規制するのは、この理屈のデタラメさを示すものです。

 公務員規制を強める動きの背景には、右翼改憲派の日本会議国会議員懇談会の働きかけがあります。「このままでは改憲阻止法案となりかねない」というのです。法案提出者の自民党の船田元議員は、方針の「急転換」をまともに説明できず、「最近は議論がなく、唐突という感が否めない」(三月二十九日)と答弁。委員会や公聴会の議論を反映したものではないと認めました。

有料CM放送

「十分な議論ない」と賛成派も指摘

 高額な資金を必要とする放送CMを野放しにすれば、資金力にまさる改憲派が有利になり、「憲法をカネで買う」という事態を許しかねない――。

 これも多くの公述人から指摘された問題点です。「国民にとっての表現の自由は、テレビ、ラジオの意見広告は規制し、公務員などの運動規制は解除することで確保される」(森川氏)、「テレビを使うのは大変お金がかかるということで、お金がある者とない者との自由をごっちゃにしないで」(松繁さん)などの意見が出ました。

 手続き整備に賛成の公述人からも「業界の実情などもまだこの委員会で十分な議論が行われていない」と指摘されています。



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