2007年4月1日(日)「しんぶん赤旗」

少数意思で“戦争する国に”

改憲手続き法案 地方公聴会

与党案に批判続出


 「何かもう採決前夜みたいな報道がなされているが、今日の公聴会が単なるセレモニーに終わらないことを願いたい」。こんな声が噴出した改憲手続き法案での地方公聴会(三月二十八日)。衆院憲法調査特別委員会が新潟、大阪で開催した公聴会から浮かびあがった問題点を見てみると――。

法案の狙いは

 法案の狙いについて大阪では弁護士の中北龍太郎氏が「自民党新憲法草案に沿って日本の根本を変えるために、改憲手続き法の制定が急がれている。単なる中立的な手続き法などで断じてない。自民草案は憲法九条の改正に最大の力点を置いている」と指摘しました。

 新潟県弁護士会会長の馬場泰氏も、「手続きが欠けていることが『立法の怠慢だ』という議論は聞かない」「憲法改正が具体的に視野に入ってきた時点で改正手続き法の議論がされている」として法案が現在の改憲の流れと一体であるという認識を示しました。

過半数の意義

 改憲案成立のための国民の承認についての「過半数の意義」と最低投票率制度が盛り込まれていないことに批判が集中しました。新潟大学名誉教授の藤尾彰氏は、「有権者の一割の賛成でも憲法改正があり得る」と指摘。馬場氏も「一番の問題は、最低投票率に関する規定を欠いていることだ」と述べ、「これではごく少数の国民の意思で憲法改正が行われてしまう。国民の総意に支えられた憲法改正にならない」と批判しました。

 関西大学教授(憲法学)の吉田栄司氏は、ボイコット運動が起こることなどを理由に最低投票率制度に疑問を呈する意見に留意しつつ、「より多くの国民の声を反映させるような国民投票であるべきだということから、選挙のように投票日を一日だけ設定してそれで処理することを再検討すべきだという意見が学界にもある」と指摘しました。

 また、藤尾氏は、「場合によっては有権者の40%の投票でも国民投票は成立し、半分が白票などの無効票だった場合、有権者のたった一割そこそこの賛成によって日本が例えば戦争する国になるということもありうる」とのべました。

運動規制問題

 公務員、教員の運動規制をめぐっては、藤尾氏が「最近、公務員の言論、表現の自由に絡む事件が続発する中での規制であり、何百万人という人たちを相当に委縮させる」と警告。吉田氏は「公務員は、法的知識、憲法知識、人権の意義をしっかりもった全体の奉仕者だ。憲法研究者や教育公務員らが発言できなくなると広く憲法改正の意義を知ってもらう上で大きくマイナス」とのべました。

有料広告規制

 有料広告規制をめぐっては、馬場氏が「ラジオ、テレビのCM放送の影響力は非常に大きく、その一方で巨大な費用を要するわけで、賛成、反対の双方が公平に利用できる合理的なルールが必要だが、十分な配慮がなく、極論すると憲法が金で買い取られる」と指摘。中北氏も、改憲推進派が「お金に飽かせてマスメディアを駆使して賛成意見を垂れ流し、情報操作の危険が大きい」と、投票日前二週間を除いて有料広告が野放しになることへの危ぐを表明しました。

 そのほか発議から投票までの周知期間の長さについて「一年ぐらい国民が国のつくり方を自分のものと考える(ことが必要)」(越智敏夫新潟国際情報大学教授)など、六十日から百八十日の与党案は短すぎるという意見も多数でました。

早期成立発言

 安倍晋三首相が改憲と結びつけ法案の早期成立を求める発言を繰り返していることに対しても批判が続出。その中で吉田氏は「(首相の改憲発言を)注目すべき違憲発言と憲法学界はとらえている」と指摘。「憲法尊重擁護義務を負う公務員のなかで、憲法を変えるべきだと発言しうるのは、国民代表としての国会議員だけで、国務大臣ましてや内閣総理大臣は発言できない」とのべました。



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