2007年3月31日(土)「しんぶん赤旗」
「臨界」5時間気づかず
電力各社報告
原発“不正”“隠ぺい”97件
臨界状態に五時間も気がつかないままでいた(東京電力)、事故の重大性を認識していたが、原発増設を優先させて事故隠しをした(北陸電力)―。三十日、電力各社が経済産業省原子力安全・保安院に提出した報告書から、原発の安全にかかわる重大な事態が明らかになるとともに、新たな不正も次々発覚しています。
運転日誌を改ざん 東電
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七時間半にわたって意図しない臨界状態が続いていたにもかかわらず、運転員が五時間も気づかずに放置されていたことがわかりました。一九七八年の福島第一原発3号機の事故について東京電力が三十日に発表した報告書で明らかになりました。
報告書によると同年十一月二日、午前三時ごろから中性子の検出器の値が異常に上昇していることに当直の運転員が気づいたものの、制御棒が抜けて臨界状態になっているとは思わず、特に対応しませんでした。
臨界状態になっているのがわかったのは次の当直班の副長が午前八時前に出勤し、検出器の値を見て制御棒の位置を確認した時でした。抜けていた制御棒を挿入したのは、異常に気づいてから七時間半後の午前十時半ごろだったといいます。
臨界を発見した副長はその日の昼すぎ、当直長に制御棒が抜けるトラブルがあったが既に処置済みと報告。臨界と気づかなかった運転員が午後十時にふたたび当直に入り、原子炉の熱出力を通常の値となるよう運転日誌を書き直し、制御棒の位置記録も通常時のものを添付するなどして改ざんをおこなったとしています。
報告書は、予期せぬ臨界が発生したことは、きわめて重大な事と受け止めているとしています。しかし、事故と改ざんの事実について、当直班から上への報告はされなかったとしています。
着工遅れ意識し隠す 北陸電
臨界事故を公表すれば二カ月後に控えていた2号機の着工が延期されることは容易に予想された―。北陸電力が三十日に発表した志賀原発1号機の臨界事故(一九九九年六月十八日発生)隠しについての報告書です。
報告書によると、事故発生時(同日午前二時すぎ)に中央制御室には当直長以下四人の運転員がいました。一連の初期対応を終えた後、当直長は発電課長に連絡。発電課長は所長以下関係者に連絡し、十四人が緊急時対策所に集合しました。すでにその時点で外部への第一報の目安である三十分を大幅に超えていました。
原子炉停止中に制御棒が落ち、大変な事が起きたという認識が多くの参加者にありました。しかし、2号機着工への影響を「十分認識し」、最終的に所長が、社外に報告しないことを決断しました。事故を隠すため、モニターの記録紙に、「点検」と記載。同日午前五時前後に、発電所と本店原子力部などとの間で急きょ開かれたテレビ会議で、発電所から「誤信号であった」との結論が報告されました。
北陸電力は、本店や当時の経営層の関与は認められなかったと強調しています。しかし、現在常務取締役を務めており、当時発電所の所長代理として事故隠しの協議に参加していた人物が、これまで事故隠し自体を隠していたことについては一切ふれていません。
臨界 核分裂反応が連鎖的に起きる状態。原発は、ウラン原子核の核分裂反応で生じる熱を利用して発電しています。核分裂反応にともなって複数の中性子が放出され、中性子を吸収したウラン原子核が次の核分裂反応を起こします。こうして次々と連鎖的に核分裂反応が起こっていく状態が「臨界」です。制御棒は、中性子を吸収する物質でできていて、連鎖反応を制御するための重要な装置です。意図せずに臨界状態になるのが臨界事故です。