2007年3月30日(金)「しんぶん赤旗」
来月実施 全国一斉学力テスト
心と家庭にズカズカ
国・業者が個人情報一手に
四月二十四日に文部科学省が小中学生を対象に行う全国一斉学力テスト。児童・生徒と保護者のプライバシーにかかわる情報が集められることが大きな問題になっています。テストの業務を委託された民間大手企業と国が個人情報を一手ににぎる危険があるからです。(小林拓也)
全国一斉学力テストの科目は、算数(数学)、国語です。加えて、生活習慣などの質問調査の時間があります。
昨年行われた予備調査では、「家には本が何冊くらいあるか」「親と一緒に美術館や劇場で芸術鑑賞をするか」など家庭のプライバシーに踏み込んだ内容の質問項目がありました。
愛知県の小学校の男性教諭(55)は「家庭環境に恵まれない子どもたちが増えている中で、『家の人と一緒に旅行に行くかどうか』など子どもたちを傷つけるような設問や、『自分は家の人から大切にされているか』など、自己肯定感が薄い今の子どもたちの心に介入する設問があり問題だ」と批判します。
児童・生徒の回答用紙には、学校名、クラス番号、個人の出席番号や名前を書く欄があり、誰がどのように答えたのか簡単に特定できます。
このことについて文科省学力調査室の担当者は「プライバシーに踏み込んだ質問や児童を傷つける質問については聞き方を変えるなどの対応をする」としていますが、氏名を書かせることについては「結果を返すために必要」と方針を変えない考えです。
文科省が、個人の名前を特定して、点数、家庭環境などの個人情報を収集・利用・保管することは、行政機関個人情報保護法に抵触する可能性があります。同法は、行政機関が、利用目的に必要な範囲を超えて個人情報を保有することを禁止しています。生活習慣などの情報は個人を特定しなくても集められるもので、必要な範囲を超えたものです。
【予備調査の児童質問紙から】
○ふだん、1日あたりどのくらいの時間、テレビやビデオ・DVDを見ますか。
○学校の時間以外に、普段1日あたりどのくらいの時間、勉強をしますか。
○あなたの家には本が何冊くらいありますか。
○1週間に何日、学習塾に通っていますか。
○携帯電話で通話やメールをどのくらいしていますか。
○あなたは、家の人と次のことを一緒にしますか。((1)野球場やサッカー場などに行ってスポーツ観戦をする(2)美術館や劇場などに行って芸術鑑賞をする(3)旅行に行く)
【予備調査の学校質問紙から】
○児童は学校生活を楽しんでいる。
○児童は礼儀正しい。
○生活保護世帯の児童の割合はどれくらいですか。
○昨年度、定期的な家庭訪問をどのくらい行いましたか。
○学校運営に校長のリーダーシップが発揮できていると思いますか。
ベネッセに丸投げ
不正チェック体制は不明
文科省から学力テストを委託されたのは、小学六年生はベネッセ、中学三年生はNTTデータです。テストの回収、採点、集計などを行います。委託料は四十九億円(〇七年度)。ベネッセは全国の小中高生二百七十四万人を抱える「進研ゼミ」をもつ巨大受験企業です。NTTデータも、NHKエデュケーショナルと旺文社の三社共同で教育分野の商品を開発・販売しています。
児童・生徒への質問には、「一週間に何日、学習塾に通っているか」「学習塾では主にどのような内容の勉強をしているか」という項目もあります。これらはベネッセとNTTデータにとっては、のどから手が出るほど欲しい情報です。
伊吹文明文科相は「契約の内容として、営業とか利益活動に使わないことははっきりしている」と述べ、ベネッセも「無断で個人情報を使用することは、契約上ありえない」と話しています。しかし民間企業が個人情報を不正に使わないようチェックする体制があるのかどうかは明らかになっていません。
中学一年生の息子をもつ新日本婦人の会東京都本部の油原通江副会長(43)は不安を語ります。
「毎週のようにベネッセからダイレクトメールが届きます。この地域で何人がベネッセの通信教育を受けているとか、ベネッセを受けている人で何人が特定の高校に入ったかということが詳細に書かれています。学力テストを受託し、ベネッセがより細かい個人情報を握るのではないでしょうか」
全国一斉学力テスト 児童・生徒の学力を把握・分析するとして、全国の小学6年生、中学3年生200万人以上を対象に行われます。当日、小学生は、国語Aと算数A、国語B、算数B、児童質問紙調査の順で実施します。中学生は、国語A、国語B、数学A、数学B、生徒質問紙調査の順。
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