2007年3月14日(水)「しんぶん赤旗」
年金事業、民間任せへ
社保庁「解体」法案を閣議決定
政府は十三日、厚生労働省の外局である社会保険庁を解体し、新たな「非公務員型」の公法人「日本年金機構」を設置することを柱とした社会保険庁「改革」関連法案を閣議決定し、国会に提出しました。関連法案は、日本年金機構を設置する法案と、年金事業運営関連法案の二つからなっています。
日本年金機構法案は、社会保険庁を廃止・分割し、これまで国が責任を持って担っていた国民年金保険料の徴収や年金給付などの業務を公法人が担い、さらに民間企業へ年金業務を委託するとしています。保険料徴収業務などを民間企業に任せることは、大量の個人情報を営利目的の民間企業が握ることになります。
年金事業運営関連法案は、納付率の向上のためとして、国民年金保険料の未納者に対して、国民健康保険の保険証を期限を切った短期証に切り替えることを打ち出しました。これは年金保険料を払えない人を医療保険で制裁しようというものです。
また、クレジットカードによる保険料納付を可能にしました。これはカード会社のもうけにつながり、保険料の未納がそのままカードの借金になる可能性があります。
国の責任放棄 ムダ遣い温存
社保庁「解体」法案
解説
社会保険庁「改革」関連法案は、社会保障の根幹をなす年金に対する国の責任を投げ捨てるものです。
政府・自民党は、保険料の不正免除などを口実に、「解体」を叫んできました。しかし、問われるべきは年金制度の改善もせず、民間会社の「ノルマ主義」を持ち込み、“収納率競争”に職員を駆り立ててきたことです。
「構造改革」路線で貧困層や不安定雇用を増大させたことも、保険料納付率低下の要因です。
法案はこの大本にメスも入れず、年金制度に対する国民の怒りを社会保険庁「改革」にすり替えようとするものです。
社会保障の根幹をなす年金は、給付だけでも数十年に及ぶものであり、公正で安定的な運用が何よりも求められます。
ところが、新組織は業務の多くを営利企業に委託する方針で、公正で安定的な運用が確保される保障はありません。それは民間保険会社の幹部が社会保険庁長官になって引き起こされた不正免除問題を見ても明らかです。
すでに市場化テストに参入しているローン・カード会社などが進出をねらっています。人権無視の保険料の徴収強化や、個人情報の漏えいはじめ国民の安全・安心を損なう事態が危ぐされます。
年金問題で国民の怒りは、大規模保養施設「グリーンピア」など保険料の流用・ムダ遣いにもありました。ところが法案では、施設建設の根拠になった条文は廃止する一方で、国が負担すべき事務費を年金保険料に充当する措置を恒久化しました。
これは数百億円にのぼるコンピューターシステム導入など保険料の流用やムダ遣いを加速する危険さえあります。背景にあるのは、公務への参入や私的年金の市場拡大をねらう日米の保険・金融業界の要求です。
新組織への移行のさい職員の「引き継ぎ規定」を設けず、「分限処分」(解雇)まで打ち出していることも見逃せません。
組織はかわっても職員は引き継ぐという雇用のルールに反するものであり、公務員減らしをすすめることは制度の安定運用にも逆行しています。社会保障破壊、雇用破壊と一体となった「改革」では、国民との矛盾は広がらざるをえません。(深山直人)