2007年3月9日(金)「しんぶん赤旗」

マスメディア時評

都政の対決軸示すことこそ


 東京都知事選をめぐり、民主党などが推す前宮城県知事の浅野史郎氏を持ち上げ、現職の石原慎太郎知事との“対決”をもてはやす報道が目に余ります。とくに六日に浅野氏が正式に出馬を表明してからは、「これで面白くなった」(七日付「朝日」社説)などと、その傾向がいっそう強まっています。

ゆがんだ立場で読者を惑わす

 東京で発行されている七日付の各新聞を見ても、「朝日」は一面のニュースと二面の特集(「時々刻々」)で、「毎日」や「東京」は一面トップでというように、大きなスペースを割いて浅野氏の出馬を報道しています。「日経」以外の各紙が社説でも取り上げ、「朝日」だけでなく「毎日」も「やっと面白くなってきた」と書きました。テレビの情報番組なども大きく取り上げています。

 浅野氏を特別扱いするのは、浅野氏に肩入れするのと同じです。浅野氏が出馬表明したからといって都知事選が「面白くなった」ということ自体、石原氏に対抗してすでに立候補を表明している、日本共産党と無党派の都民が推す吉田万三氏などにずいぶん無礼な話です。こうした異常な報道が、選挙にあたって何より尊重されなければならない「報道は正確かつ公正でなければならず」(新聞倫理綱領)という原則を乱暴に踏みにじっているのは明白です。

 しかも「朝日」社説のように、「面白くなった」という理由が、「浅野氏と石原氏が表舞台でぶつかるだけでなく、二大政党の対決が鮮明になったのは結構なこと」という立場からいわれるのでは、国民に真実を伝えるべき報道機関としての役割を踏みはずすものというほかありません。

 いったい「朝日」は、石原都政の実態も、どの政党がどんな役割を果たしているのかも、まったく眼中にないのか。石原都政は日本共産党以外の自民、公明、民主が事実上の「オール与党」となっており、都政をめぐる「二大政党の対決」というのはまったくの虚構です。石原知事の提案に100%賛成してきた党が、どうして「対決」などできるのか。「朝日」はこうした都政の実態をまともに取り上げ、伝える意思がないといわねばなりません。

 都政の実態を見れば誰でもわかるように、東京都政で石原都政に立ち向かい、唯一の「たしかな野党」となってきたのは日本共産党です。その日本共産党と無党派の都民が都知事選で候補として推しているのが吉田氏です。「朝日」などの報道は、その日本共産党と吉田氏の役割を「黙殺」し、都民の目から隠す点でも重大な偏向報道です。

 今回の知事選でも自・公は石原氏、民主は浅野氏を支援するとしているものの、浅野氏自身は出馬会見で石原都政の「ほとんどは続けていくべきもの」と公言しています。いずれも「オール与党」の仲間なればこそで、自・民の「対決」は“選挙目当て”とはいえても、都政の転換を意味するものではありません。

 もともと「朝日」は都知事選をめぐって、異常に民主に肩入れし、「菅直人代表代行を立てて首都決戦を挑め」などと主張してきました。浅野氏の出馬表明を「二大政党の対決」ともてはやす論調は、こうしたゆがんだ立場の延長線です。それは読者に真実を伝えないだけでなく、都民を誤った方向に導く危険を持ちます。

正確な情報伝え判断材料提供を

 新聞であれ、テレビであれ、選挙にあたって報道機関にまず求められるのは、何よりも主権者である国民が正しくその権利が行使できるよう、正確な情報を伝え、公正な判断材料を提供することです。それを行わず、逆に国民を誤導するというのでは、それは報道機関としての使命を自ら投げ捨てることになります。

 今回の東京都知事選は、石原知事の都政私物化や税金の無駄遣いなどが都民の前に明らかになり、石原都政を続けるかどうかが大きな争点になるなかでおこなわれます。そうした選挙だからこそ、石原都政の実態とともに、石原都政をほんとうに変える立場・政策を持っているのはどの党、どの候補かを国民・都民の前に明らかにすることが重要になっています。

 石原知事の政治姿勢にせよ、福祉や教育など都民の暮らしにかかわる施策にせよ、オリンピックの開催と大型開発の問題にせよ、都政をめぐる対決軸は鮮明です。報道機関が、選挙にあたって自らに求められる役割を果たそうとまじめに考えるなら、「二大政党対決」の虚構にしがみついたりせず、都政をめぐる対決軸がどこにあるのか、一歩も二歩も踏み込んで明らかにすべきです。(宮坂一男)


もどる
日本共産党ホーム「しんぶん赤旗」ご利用にあたって
(c)日本共産党中央委員会
151-8586 東京都渋谷区千駄ヶ谷4-26-7 TEL 03-3403-6111  FAX 03-5474-8358 Mail info@jcp.or.jp