2007年3月5日(月)「しんぶん赤旗」
列島だより
貧困に苦しむ生徒救おう
返却不要の就学援助金
高校教職員の拠出を元に
「貧困と格差」が広がり、日夜勉学に励む高校生たちの間にも、「父親の失業で、授業料や通学費が払えなくなった」「経済的理由で退学せざるを得なくなった」など、深刻な事態が生まれています。そんななか、高校の教職員たちが実施している就学援助や奨学金制度が、父母や生徒に「大きな励みになった」と喜ばれています。宮城、静岡両県の取り組みを紹介します。
宮城高教組
宮城県高等学校教職員組合は毎年、経済的な理由で就学困難な生徒に、「主任手当」の自主的な拠出を元にした返却不要の就学援助金を贈り、励ましています。
生徒の現状は日本の現実が
就学援助を受けた生徒たちの現状は、格差と貧困が広がる日本の現実をあらわしています。
「父親が病気で倒れ、母親のパートと内職で生計を立てている。本人も毎日アルバイトをし、夜、帰宅後、深夜十二時まで内職を手伝い、それから勉強をする」「母子家庭で、定期券が買えず、片道十五キロ以上の道のりを自転車で通っている」「母親と兄と三人家族。母親は失業中で兄は無職。今年度、生活保護が打ち切られ食べるのもやっとの生活」「父親が経営する店が倒産。本人もアルバイトを二つ掛け持ちして生計を助けている」―。
就学援助金は、そんな生徒たちを少しでも応援しようと、非組合員の先生の協力も得て、就学困難な生徒に一人五万円(一校二人)を限度に支給しています。組合の先生を通して主任手当管理運営委員会に申請し、生徒に支給されます。
ほとんどの主任の協力で
主任手当導入当時、県高教組の副委員長だった渡辺繁さんは、「ひも付きのお金は(自分のものにはせず)、プールして有効に使おうと議論し、最終的に教育相談活動と就学援助金に使うことになり、ほとんどの主任が拠出してくれました」と語ります。
二十九回目の今年は、県内六十七校(定時制・分校を含む)で百五十九人の生徒に合計六百六十四万円が贈られました(一月現在)。
援助を受けた生徒からのお礼の手紙には、困難をかかえながらもまじめに懸命にがんばっている高校生の姿が映し出されています。
「先生方の貴重なお金を頂いたからには、勉強も部活もこれまで以上にがんばっていかなければと思っています」「たくさんの人に支えられ、見守られている自分はとても幸せであり、恵まれていると感じています」(宮城県・佐藤信之)
宮城高教組・菊池英行委員長の話
授業料の減免を受けている県内の生徒は、全日制9・01%、定時制30・78%に急増しています。格差と貧困の拡大で、教育の機会均等が失われています。本来、教育は無償のものであり、世界の流れです。私たちは、進路の保障を求めて北海道・東北ブロックで毎年要請行動をしていますが、今年は修学の保障を加えて、授業料の無償化と奨学金制度の確立を国、自治体に働きかけています。
静岡高教組
“経済的困難を抱える生徒を支援しよう”と、静岡県高等学校障害児学校教職員組合(静岡高教組)は、主任手当を原資にした「奨学金支給事業」(毎月二千円、償還不要)を始めて二十七年となり、受給者は累計五千人を超えました。
受給者の家庭年収0―300万
毎年、奨学金を受給した生徒や親から感謝の手紙が寄せられます。
「奨学金は、教科書やノート文具代等で勉学また部活動にありがたく有効に使わせていただいております」「不況の折、このような制度があり親・子ともに助けになりました」「娘の学業向上の要になっております」
主任手当拠出に協力した教員は、近年百二十―百五十人前後です。二〇〇六年度の受給者は百十五人(県立高校64%、障害児学校36%)でした。
受給家庭の大半は、年収ゼロ―三百万円。母子・父子家庭や生活保護受給世帯をはじめ、親の失業、離婚、死別などで「両親または片親がいない家庭」が六割を占め、「病気で働くことができない家庭」などを含めると八割近くを占めています。
生徒に奨学金支給を紹介してきた県内A工業高校の教師(53)は「料金を支払えず水道を止められたといった家庭の困窮した事情を生徒はなかなか話しません。生徒と本音で話しあえる関係を築くこと、授業も含め、働くことの大切さとお金を稼ぐ大変さなどを、ぜひ伝えたい」と話します。
母が職を失い苦しい生徒が
教職員たちは、困難に直面した生徒をなんとか救いたいと必死です。
◇二年生の女子(17)で、母が職を失い、大変苦しい生徒がいます。本人も一時学校をやめて働くことも考えました。成績はトップクラスで是非助けてやりたい。 ◇一年生の男子(15)で、両親は離婚し、父親からの養育費で生計をたてています。本人は、一時間一時間の授業を大切にすると同時に吹奏楽の部活に励み、アルバイトの特別許可をも願っているほど家計への影響を心配しています。この生徒を支えてやりたい――など。静岡高教組の澤村正紀書記長は「授業料を支払えないために卒業できないなど、経済格差が教育格差に直結しています。この事業を進めつつ、国際人権規約の、高等教育への『無償教育の漸進的導入』の規定を留保し続ける政府の姿勢を変えていきたい」と話しました。(静岡県・森大介)
授業料減免の生徒急増
高校の授業料の減免を受けている生徒も急増し、二十万人を超え、全日制で8・6%、定時制で18・7%に達しています(グラフ)。「リストラ、失業、倒産」など経済的な理由が増加し、その結果、「修学旅行の不参加」「中途退学」「部活動に参加できない」などの生徒が生まれています。
修学と進路を保障する運動を続ける日本高等学校教職員組合(日高教)の藤田新一中央執行委員は、「いま高校生たちは、貧困化や格差拡大、家庭の経済的な困難の影響をもろに受け、授業料減免生徒数も、それに並行して増大しているのが特徴」と指摘します。
そして教育の面では、「政府は教育予算をもっと増額する必要がある」といいます。日本の公教育への支出額は国内総生産(GDP)比で3・5%、OECD三十カ国中二十九位と低い。「しかも、国の予算に占める文部科学省予算の割合は年々下がり、二〇〇六年度は7%。もし一九八〇年度の10%を維持したとすれば二兆五千億円の財源が確保でき、それを教育に活用すれば、父母や生徒の負担は大幅に軽減する」と強調します。
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日本共産党の「政策」から
日本共産党の「いっせい地方選挙にのぞむ各分野の政策」から。
高校の授業料減免制度を拡充させます。学費無償化は、世界人権規約でうたわれている世界の流れです。ところが自公政権は国際人権規約の「高校教育無償化」「大学教育無償化」の各条項への批准を拒否したままです。現在批准をしていない条約加盟国はたった三カ国(日本、ルワンダ、マダガスカル)です。批准をつよく求めるとともに、幼児教育、高校、大学、専門学校などでの教育費負担軽減、無償をめざします。
主任手当 文部省(当時)が、一九七五年に学校の管理強化と教職員集団の分断、組合の弱体化を狙いとして導入を強行した職制としての「任命主任」に支払われる手当です。しかし、それに反対する国民的な運動のなかで、主任手当を形がい化させる拠出運動が各地で取り組まれました。