2007年3月5日(月)「しんぶん赤旗」
人間らしく たたかい 生きる シリーズ
国保証取り上げやめる
子育て世帯の医療 奪えない
山形県の6自治体
住民運動で広がる
「子どものいる世帯には資格証明書を発行していません」。高い国民健康保険料(税)に、払えない世帯が急増しているなかで、山形県では資格証明書の発行を控える自治体が増えています。住民や県社会保障推進協議会(県社保協)がせめて病院にかかれるようにと運動をすすめてきたことの反映です。(竹田捷英)
県社保協は、昨年十月から十一月にかけて、県下の自治体にたいし三コースに分かれて要請行動を繰り広げました。
国保、医療、介護保険、生活保護行政について改善を求めて懇談するというもので、自治体要請キャラバンとよんでいます。このなかで、国保の資格証明書を子どものいる世帯に発行していないと答えた自治体が六市町に増加しました。
山形市もその一つ。市の説明によると市内の学校で、歯科健診の際むし歯が見つかった子どもがいました。治療するように指示されたのに行ったようすがありません。学校側が事情を調べたところ、子どもの家庭は国保税を払えず資格証明書が発行されていました。資格証明書では、かかった治療費の全額をいったん窓口で払わなければなりません。大きな負担に行きそびれていたのです。
市は、こうした事例が起こったことへの配慮だとしています。
県社保協の守岡等事務局長は「子どもが病気になったとき、保険証がなかったら親は本当に困ります。国民健康保険法施行令で定めた『特別の事情』があるときは資格証明書を発行しないとされています。その判断は各市町村がします。小さい子どもほど医者にかかりやすく、資格証明書発行の適用除外を申し入れ、運動してきました。その声が通り始めた一昨年は回答が村山市だけだったので、広がりを感じています」といいます。
「命にかかわる」と運動
山形にみる国保証
山形県では、保険料(税)を払えない滞納世帯が二〇〇六年六月一日現在で三万一千九百六十八世帯、一年以上滞納して保険証を取り上げられ資格証明書を発行された世帯が同千七十一世帯と過去最悪水準となっています。
滞納世帯は〇二年の二万六千六百九十七世帯に比べ五千世帯増加しました。資格証明書発行世帯は〇二年の五百八十九世帯から一・八倍になりました。
背景に県内の雇用や県民所得の悪化があります。この五年間に、財界と自公政府が一体となってすすめてきた「構造改革」のもとで正規社員数は四万六千人減少する一方で、非正規社員は二万五千人増えました。
一人当たり県民所得は全国三十九位の二百四十一万円となっています。ところが国保税は、標準的な家庭(両親と子ども二人)の場合、年事業所得三百万円で年三十九万五千円にもなります。(山形市)
一命取り留め
保険証取り上げ世帯の増加に伴って県内でも病院にかかることができずに、命にかかわりかねない事例が起きています。
二十三歳のぜんそくを患っている青年は、保険料が払えなくなり資格証明書を発行されました。保険薬局に四万円、病院に六千円の未払金もあり、治療に来なくなりました。
薬がなくては、ぜんそく発作がおきたさい生命の危険にさらされます。薬局が青年と連絡をとろうとしますが、とれません。家族がやっと青年と連絡をつけ、代わりに薬を取りに来るようになり、その後青年は回復、社会復帰できるまでになりました。
六十七歳の女性の場合、一人暮らしで部屋で倒れているところを訪ねてきた保健師に発見され、一命を取り留めました。多発性脳梗塞(こうそく)を患っていましたが、保険証がなく必要な医療が受けられないでいました。保健師が心配して訪ねたのでした。
相談会を開催
「病院にもかかれず命を落とすような事態を招いてはならない」と改善にむけた運動をすすめています。
山形市では農民連、保健生協、日本共産党、民医連、生活と健康を守る会、民主商工会が「山形市国保をよくする会」をつくっています。市長にたいし、保険証のとりあげをやめ、市の国保税減免制度を改善してほしい、と申し入れました。
「国保税なんでも相談会」も開きました。連続値上げで納付が大変との市民の相談を受け、減免の実現に尽力しています。日本共産党の渡辺ゆり子市議(山形市区県議候補)も参加し、相談を受けました。
県社保協の守岡さんはいいます。
「国保をめぐる問題では、自治体の姿勢一つで加入している住民の負担を緩和できます。今年はキャラバンが始まって二十回、二十年を迎えます。『子どものいる世帯に資格証はださない』自治体を広げたい。高い国保料の減免、加入全世帯に国保証が届くように運動していきたい」
■山形県社保協への自治体の回答
山形市 子どものいる世帯には(出さないよう)配慮している。
新庄市 病人、子どものいる世帯には発行していない。
村山市 子どものいる世帯には発行していない。
西川町 病人、子どものいる世帯には発行していない。
白鷹町 病人、子どものいる世帯への発行は配慮している。
真室川町 お年寄り、子どものいる世帯には出さない。
判断は自治体
「世帯主と親族が病気にかかったり負傷した」「災害や盗難にあった」「事業を廃止・休止、著しく損失した」――。国はこうした事例を示し特別な事情があるときは、資格証明書を発行しないとしています。
これは、あくまで国の示す事例で、判断は自治体にまかされています。日本共産党の小池晃参院議員や全国生活と健康を守る会連合会の要請に厚労省は「(特別の事情の)判断は自治体がおこなう」「自治体が決めれば生活保護基準以下も『特別の事情』に入れてよい」と答えています。
山形県で広がる動きは、「特別の事情」を自治体が判断して、資格証明書発行の適用除外対象に配慮しているものです。全国には、「保険料を納付することにより、生計を維持することが困難な場合」(旭川市)も適用除外にしている例もあります。
資格証明書 国民健康保険で保険料(保険税)を一年以上滞納すると保険証の返還を求められ、代わりに発行されるのが資格証明書です。
資格証明書では医療機関にかかると、いったんは治療費を全額自己負担しなければなりません。そのため支払いが多額になり、医者にかかるのが困難になります。