2007年3月3日(土)「しんぶん赤旗」
衆院委 予算案強行
中身が異常ならやり方も異常
政府・与党は二日、衆院予算委員会で二〇〇七年度予算案採決を強行しました。与党による予算案の委員会強行採決は、消費税が実施され、リクルート疑惑で竹下内閣が退陣に追い込まれた一九八九年以来。まさに暴挙というほかありません。
審議は短く
深刻な「貧困と格差」への対策や「政治とカネ」をめぐる疑惑、閣僚のモラルの解明など、例年以上に時間をかけた審議が求められているにもかかわらず、予算委での審議は合計約六十三時間で、昨年に比べ四分の三という短さでした。これは、野党の合意なく与党が突っ走り、一方的に強行するという暴走に暴走を重ねた結果です。
予算案の中身が異常なら、審議と採決の強引なやり方も異常という、まさに異常ずくめの今回の事態。安倍晋三首相が就任後初めて編成した予算案をめぐるこの事態は、同政権の本質を浮き彫りにしたといえます。
異常な予算案の中身では、最大の課題である「貧困と格差」への対応が象徴的です。
衆参の代表質問や衆院予算委員会などの論戦で鮮明になったのは、政府が貧困の認識さえ示さず、空前の利益をあげる大企業には減税をおこなう一方、所得減、負担増にあえぐ庶民には増税と負担増の上乗せで、逆に貧困・格差を拡大させるということでした。
政府・与党は口を開ければ「成長底上げ戦略」などと、大企業がもうかれば労働者の所得も増え、家計も潤うという理屈を繰り返しました。この「戦略」がいかに偽りであるかは、大企業が「急成長」したこの五年間で、逆に年収二百万円以下の労働者が百五十七万人も増え、ワーキングプアが大問題になったことだけ見ても明らかです。
それは、日本共産党など野党が要求した、日本経団連の御手洗冨士夫会長の参考人招致を政府・与党が最後まで拒否したことにも表れています。
格差問題も
御手洗氏は、経済財政政策に大きな影響力をもつ政府の経済財政諮問会議のメンバーであり、キヤノンの会長です。そのキヤノンでは、「偽装請負」が相次ぎ明らかになりました。「貧困と格差」の是正にとって、人間らしく働くルールの確立は最重要課題の一つです。「偽装請負」問題で同氏を参考人招致するかどうかは、政府に貧困を解決する意思が多少なりともあるかどうかの試金石です。
政府・与党はこの要求を無視し、予算案の採決を強行したのです。御手洗氏は、長時間労働野放し、残業代ゼロの「ホワイトカラー・エグゼンプション」導入を迫る一方、さらなる大企業減税を要求しています。文句の一つもいわず、同氏をかばう姿は、「成長戦略」で国民が豊かになるという宣伝がまったくのでまかせであり、“財界栄えて民滅ぶ”という財界成長戦略にほかならないことをはっきりと示しました。
政府・与党の異常さは、「政治とカネ」、モラルの問題でも同様です。
事務所費問題で、伊吹文明文科相と松岡利勝農水相は制度の問題にすり替え、具体的な中身の公表を拒否して居直り。辞任した佐田玄一郎前行革担当相は、証人喚問に応じていません。
安倍首相は、「女性は産む機械」「(工場労働者は)労働時間だけが売り物」などと、人間を道具扱いした柳沢伯夫厚労相の罷免要求もかたくなに拒否しました。
予算案審議が柳沢発言をめぐり冒頭から不正常な状態で出発し、最後まで政府・与党の横暴が続くなか、安倍首相は二月二十六日の自民党役員会で、改憲手続き法案を五月三日までに成立させるよう指示しました。一連の事態からは、国民生活はそっちのけで、憲法改悪の野望実現にひた走る安倍政権の異常で危険な姿があらためて浮かび上がってきます。(小泉大介)