2007年3月2日(金)「しんぶん赤旗」
主張
全国学力テスト
個人情報を国と大企業が握る
文部科学省が予定している全国一斉学力テスト(四月二十四日)が実施されれば、日本全国の小中学校の子どもと家庭の個人情報を受験産業と国が握ることになるという重大な問題に懸念の声があがっています。
「質問紙」に書き込ませて
文科省の全国学力テストは、小学校六年生と中学三年生のすべての児童・生徒に、国語と算数・数学のテストを全国一斉に受けさせ、学校と子どもに成績順の序列をつけるというものです。子ども、学校間に過度の競争とふるいわけを強いる全国学力テストは、子どもの心を傷つけ“学校嫌い”をひろげ、“すべての子どもに基礎学力を身につけさせたい”という国民の願いに逆行します。
加えて浮かび上がってきたのが個人情報保護にかかわる問題です。
全国学力テストには、教科のテストとともに、学校や家庭での勉強や生活について子どもにたずねる「質問紙」があります。
昨年十一―十二月に実施された全国学力テストに向けた予備調査では、「質問紙」の回答用紙に、学校名、男女、組、出席番号とともに、名前を記述するよう求めています。質問は、生活習慣や人間関係、教科の好き嫌いなど九十二項目に及びます。
「今住んでいる地域が好き」か、など内心にかかわる質問、「あなたの家には本が何冊くらいありますか。(教科書や参考書、漫画や雑誌は除きます)」など、家庭環境にかかわる質問が数多くあります。
これらの個人情報を文部科学省が一手に握るだけではありません。全国学力テストの回収、採点、集計、発送業務は民間企業に委託します。小学校は進研ゼミで知られるベネッセコーポレーション、中学校はNTTデータが教育測定研究所・旺文社グループと連携してあたります。受験産業が業務を請け負うのです。
子どもへの百項目近い質問と教科テストで得た個人情報を、これらの民間大企業も独占できるのです。塾やけいこごとにかかわる質問も少なくありません。「一週間に何日、学習塾(家庭教師を含む)に通っていますか(夏休みなどを除く)」と質問し、答えも「毎日」「六日」「五日」「四日」「三日」「二日」「一日」「通っていない」の八項目を用意するほどの念の入れようです。
個人名までかかせて、通塾状況をこんなにくわしく質問すること自体、「特定の営利企業が国民の税金をもって、自分たちに有利なデータを独占的にとることがあってはならない」(伊吹文明文部科学相、二月二十一日衆院文部科学委員会)とされる行為です。
日本共産党の石井郁子衆院議員が求めたように、全国学力テストへの参加・不参加は児童・生徒、学校、教育委員会の判断にまかせ、個人名を書かないことも認めるべきです。
情報の紛失、流出の恐れ
民間企業が請け負う学力テストをめぐっては、最近も山梨県と長野県の十五の小学校約二千人分の個人名入りデータが紛失する事故が起こっています。業務を請け負った企業が委託した電算処理システム会社から、別の配送会社へ運送会社が搬送する過程で不明になっています。
全国学力テストを請け負う大手企業も物流を中心に工程によってそれぞれ企業に業務を委託します。全国学力テストで得られる個人情報は、先の紛失事故の比ではありません。
受験産業と国が全国の子どもと家庭の個人情報を握る全国学力テストは、個人情報保護の観点からも重大であり、中止すべきです。