2007年2月17日(土)「しんぶん赤旗」
主張
経済成長
不安と貧困の「果実」では
安倍首相は衆院予算委員会で、「景気を拡大することで、『果実』を家計にも広げる」と「成長」戦略を力説しています。
「成長しなければ果実は生まれない」と首相は言います。もっともらしく聞こえますが、政府の判断によると、景気拡大はすでに戦後最長を更新しています。
それにもかかわらず、いまだに庶民の家計には「果実」が実っていません。
いぜんとして弱い家計
昨年十―十二月期の国内総生産(GDP)は、前期と比べて実質で1・2%増加しました。四半期で見ると八期連続のプラスです。
十―十二月期の家計消費は1・1%増と、高めの数字になりました。しかし、これは七―九月期の減少分(マイナス1・1%)を穴埋めしたにすぎない水準です。
大田弘子経済財政相でさえ、「消費は横ばいで、いぜんとして弱さが見られる」とのべています。
まさに「いぜんとして」です。
大田氏の二代前の経財相をしていた竹中平蔵氏も、企業収益、設備投資の改善が「消費にしっかり結びついていくか見極めたい」と語っていました(二〇〇三年九月)。
それから三年以上たち、企業が生み出した価値がどれだけ働く人に回ったかを示す労働分配率は下がり続けました。三井住友系の日本総研によると日本の労働分配率は米国を下回る水準まで落ち込んでいます。一人当たり賃金は〇三年度から連続で減少しました(法人企業統計)。「戦後初の所得増につながらない景気回復」(三菱UFJ証券の水野和夫チーフエコノミスト)です。
一方で、大企業は過去最高益を更新し続けています。日本経団連の幹部企業のトヨタ自動車は、〇六年度の売り上げが二十三兆円、営業利益は二兆円を超える見通しを明らかにしています。資本金十億円以上の大企業の一人当たりの役員報酬は、〇一年度の千四百万円から〇五年度には二千八百万円に倍加しました。同じ時期に株式配当は約三倍に膨らんでいます。
労働者の賃金を抑えて大企業が収益を増やし、増えた利益を役員と株主が分け取りする構造です。
日本経団連の御手洗冨士夫会長(キヤノン会長)は企業の生産性を引き上げることが最優先だと主張し、安倍内閣も同調しています。
まったく身勝手な議論です。大企業は正社員を非正規雇用に置き換え、「ワーキングプア」を広げることで人件費を抑えて「生産性」を上げてきました。財界と安倍内閣が導入に執念を燃やすホワイトカラー・エグゼンプションは、成果主義の徹底とあいまって正社員を長時間過密労働に駆り立てる制度です。残業代ゼロで“死ぬほど”働かせて、「生産性」を上げることが狙いです。
大企業の当面の業績は上がるかもしれませんが、国民にはワーキングプアと過労死の再生産を押し付けるやり方です。
過去最悪の生活不安
内閣府が一月に発表した「国民生活に関する世論調査」によると、生活不安を抱える人は67・6%で、過去最悪になりました。今回の「景気拡大」の間も傾向的に増え続け、十五年前の46・8%から二割も増加しています。
「景気拡大」が多くの国民にもたらした「果実」は貧困と不安でしかありません。大企業中心の異常な経済のあり方、逆立ちした税制・財政をただすことが求められています。