2007年2月14日(水)「しんぶん赤旗」
子どもの貧困
政治はどう向き合う
土台から正す政策に
衆院予算委 志位委員長の質問から
「母子家庭の置かれている深刻な現状への認識をまったく欠いた冷酷無情というほかない政治だ」。十三日の衆院予算委員会総括質問で日本共産党の志位和夫委員長が安倍晋三首相を追及すると、議場が静まり返りました。日本の未来にかかわる“子どもの貧困”問題。その実態に対する認識さえ示さない政府と、明確な打開の方向を示す日本共産党の対比が鮮やかになりました。
貧困の認識
志位「貧困率―OECD諸国平均を上回っている」
首相「再生産される日本にしてはいけない」
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志位氏がまず取り上げたのは、OECD(経済協力開発機構)が昨年七月発表した「対日経済審査報告書」。
そこでは、貧困ライン(その国の平均的所得の半分)以下の所得しかない家庭の子どもの割合――子どもの貧困率を各国で比較しています。日本は14・3%。OECD諸国平均の12・2%を上回っており、近い将来、平均の二倍にまで高まる危険があるとしています。
志位 報告書は、一人ひとりの子どもの成長の可能性を阻むだけでなく、貧困が次の世代に引き継がれる危険をつくりだしているという点でも、日本の未来にとって重大な問題となっていると指摘しています。そういう認識をお持ちか。
首相 貧困が再生産される日本にしてはいけないと考えている。
事態の重大性を認めようとしない首相。報告書では、日本の母一人子一人の母子家庭では、貧困率が57・9%で、OECD平均の21・0%の三倍近くと、飛びぬけて高率になっています。志位氏は、シングルマザーが昼も夜も働き、そのなかで子どもたちと向かい合う時間をどうやってつくりだすかで苦闘している生々しい実態も紹介。これが「まともな社会」と考えるのかとただしました。
ここでも首相は、「仕事をしている方々がより給料の高い仕事、正社員になることが可能な就労支援をおこなっていきたい」などと、一般論をのべるだけで、最後まで貧困の認識を示しません。
柳沢厚労相にいたっては、「正しい情報にもとづく議論を」「児童手当が増えている」などといって、貧困の実態をごまかすことに終始しました。
志位氏は「(OECDの)データは直近のものをそろえている」「児童手当は広く薄く配られており、貧困率の問題には寄与しない」とすかさず反論。そのうえで、この問題に政治がどう向き合うかとして、予算のあり方の問題と最低賃金という二つの角度から政府の姿勢をただしました。
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予算のあり方の問題ではどうか。予算の役目は、貧困と格差が広がったときに、税制と社会保障によって所得の再分配をおこなうことにあり、OECD諸国では、平均で8・3%貧困率を下げています(グラフ)。日本だけが逆に1・4%貧困率が増大しているのです。
志位 日本では子どもを持つ貧困家庭に対して、税制と社会保障が、貧困を減らすのではなく、貧困を増やす方向に逆立ちして働いている。異常ではないか。
厚労相 子ども、児童に対する目配りを的確にやっていく。
志位 実際は子育て支援をどんどん減らしてきたのが実態ではないか。
児童扶養手当削減
志位「母子家庭の子どもの貧困をより悪化させる」
厚労相「就業・自立へが基本的理念」
志位氏は、「母子家庭の命綱」といわれる二つの制度について具体的に安倍内閣の姿勢をただしました。
一つは母子家庭の七割が受給している児童扶養手当の削減問題です。
二〇〇三年四月、同手当の受給が五年を超えた後は、給付を最大半額まで削減する法改悪がおこなわれました。政府は、来年四月から、この手当を大幅に削ろうとしています。
志位 児童扶養手当を削減したら、母子家庭の子どもの貧困をより悪化させることは明瞭(めいりょう)ではないか。
厚労相 (手当の)支給停止をする場合も少なくとも二分の一の給付額は保障する。
志位氏は「結局、二分の一までの削減はあり得るという答弁だ」と指摘。厚労省が設置している国立社会保障・人口問題研究所の研究報告書『子育て世帯の社会保障』で、児童扶養手当の削減が母子家庭の自立促進につながるかどうか詳細に検討しているとして、その内容を紹介しました。
報告書では、日本の母子家庭は、就労率が「先進諸国のなかで突出して高い」にもかかわらず、家計が苦しいのが特徴で、その原因として女性の仕事の多くがパート・アルバイトなどに限られていることがあると分析。支給期限に制限を設けたりすることについて、「『自立』促進にはつながらないばかりか、母子世帯の子どもの経済状況を悪化させる恐れがある」と結論づけています。
志位氏は、報告書を読み上げ「これは受けとめるべき結論ではないのか」とただしました。
柳沢厚労相は、「福祉から就業・自立へが基本的理念。実際就業されて明るい展開をしている例もある」などと答弁。
志位氏は「きれい事をいっても、実態を知らない」と指摘。「自立支援センターといって、窓口をつくっても、実際には求人がない。窓口があっても中身がない。これが政府がやっている対策だ」と厳しく批判しました。
母子加算廃止
首相「公平性の確保という観点から」
志位「公平いうならワーキングプアの暮らしの水準引き上げこそ」
もう一つは、来年度予算案に盛り込まれている、生活保護をうけている母子家庭への母子加算廃止の問題です。
安倍首相は、衆院代表質問(一月三十日)での志位氏の質問に、「(この措置は)生活保護を受けている母子家庭と、受けていない母子家庭の公平性の確保のためだ」と答えています。
志位氏は「あまりにも実態を知らない、心ない答弁だ」と批判しました。「公平性の確保」というなら、生活保護を受けている母子家庭から母子加算をとりあげるのではなく、必死に働いても生活保護水準以下の暮らししかできない母子家庭の生活の改善こそ求められていると力説しました。
志位 ワーキングプアの母と子の暮らしの水準を引き上げるために心を砕くことこそ政治の責任ではないか。
首相 公平性の確保という観点にたって、段階的に母子加算を廃止する。
本会議と同じ答弁を繰り返し、そのうえ「(就労支援は)大きな成果をあげている」などという安倍首相。志位氏は、「一人親世帯は百四十万世帯いるが、その中の六割が貧困だ」と指摘しました。
「深刻な現状への認識をまったく欠いた冷酷無情というほかない政治であり、憲法二五条で保障された国民の生存権を侵害するものだ」。志位氏はこうのべて、母子家庭にとっての二本の「命綱」を打ち切ろうという仕打ちだとして、その中止を求めました。
児童扶養手当を半減、母子加算を廃止したとしても、削減される予算は国と地方をあわせて二千五百億円にすぎません。一方、政府は来年度予算案で、大企業向けを中心とした企業減税の拡大、大資産家向けの証券優遇税制の温存で、一兆七千億円もの大減税の大盤振る舞いをしようとしています。
志位氏は、「これを中止すれば、ごく一部をふりむけただけで母子家庭の貧困に追いうちをかけるような冷酷な政治をやめるための財源は十分にまかなえる」と強調しました。
最低賃金引き上げ
首相「(所得5割目標は)中小企業を圧迫」
志位「抜本的引き上げを中小企業応援と並行で」
日本共産党の志位和夫委員長は、日本の貧困の広がり、“子どもの貧困”の広がりの土台の問題として最低賃金のあり方についてもとりあげました。
日本の地域ごとの最低賃金を平均すると時給六百七十三円。年三千時間、一日十二時間という過労死するような働き方をしても年収二百万円にしかなりません。
志位氏は、日本の最低賃金の水準が、「貧困を選ぶのか、過労死を選ぶのかという水準にとどまっている」という問題を指摘しました。
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ヨーロッパ諸国では最低賃金の水準は、労働者の平均的所得の四割台、五割台です。アメリカでも最低賃金を大幅に引き上げることになっており、日本だけが、平均的所得の32%という最低水準にとどまっています。(グラフ)
志位 最低賃金で働いても貧困にならない社会にするためには、最低賃金は労働者の平均的所得の五割を目標とすることが当然だ。
安倍首相 現実面を見ると、中小企業を中心に労働コスト増により事業経営が圧迫し、かえって雇用が失われる可能性が高い。
志位氏は、中小企業の経営圧迫というなら、「乾いたタオルを絞る」といわれる最低賃金をも無視した大企業の下請けいじめの横行や、最低賃金をも下回る賃金となっているタクシー労働者をつくりだした「規制緩和万能論」を見直すべきだと追及しました。
志位 最低賃金の抜本的引き上げと同時並行で、中小企業の営業を応援する政治に切り替えるべきだ。
首相 私たちがやろうとするのは最低賃金の四十年ぶりの改正と中小企業の支援。中小企業の生産性をあげ、地方の中小企業の応援をする。
志位 同時というが、抜本的引き上げはやらないという。最低賃金の改正も生活保護の水準に見合ったものにするというもの。私がいっているのは五割の水準をめざすべきだということ。なぜ抜本的引き上げといえないのか。
首相 中小企業の実態を見ながら雇用が失われないようにしなければならない。
最低賃金制度創設(一九五九年)の議論の際も、最低賃金が中小企業を圧迫するという意見がありました。志位氏は、それに対して安倍首相の祖父である当時の岸信介首相が、最低賃金制によって「中小零細企業の劣悪な労働条件が改善され、能率もあがり、事業も安定し、過当の競争もなくなる」ことで、「中小企業対策としても効果がある」と答弁していたことを紹介。「立場は違うが、見識ある発言。こういう見解こそ引き継ぐべきではないか」とのべ、こう求めました。
「貧困と格差を土台からただしていくために、最低賃金を抜本的に引き上げ、全国一律の制度とすることです」
頑張っているお母さんに届けば
質問の反響
日本共産党の志位和夫委員長が十三日の衆院予算委員会で行った質問をテレビで見た人から電話やメールで多くの感想が寄せられました。
母親一人の収入で自分も含めた三人の兄弟を育ててもらったという男性は「母子家庭が抱える貧困の指摘はまったくその通り。志位さんの話が、貧困で苦しみながら、それでも頑張って働いて子育てをしているお母さんに届けばいいと思いました」と話しました。
自民党員の男性は「志位さんの最低賃金制の質問はよかった。自民党の政策は国民を苦しめるだけだ」と語りました。中卒で東京のせんべい会社で働いている男性は「志位さんの質問は労働者の立場で、経済をよくしようという追及で、とてもよかった」と言います。
新潟県長岡市の母子家庭の女性は「志位さんは母子家庭のことをよく理解してくれています」と話しました。
「志位さんの質問、よくぞやってくれた。それにしても安倍首相、柳沢厚生労働相の答えには心がない」「志位さんが政府に食い下がり、生きる喜び、希望を感じる言葉を発せられて胸が熱くなりました」「国会で立ち向かってくださる姿に感動しました。一人でも多くの母子家庭や弱い立場の方々に明るい笑顔が戻るよう頑張ってください」といった感想がメールで寄せられました。
児童扶養手当 所得の低い母子家庭を対象に、「児童の心身の健やかな成長に寄与」することを目的に支給されているもので、額は子ども一人に対して親の所得に応じて最大月額四万一千七百二十円から九千八百五十円となっています。第二子は五千円、第三子以降は三千円を加算。
生活保護の母子加算 片親がいないことにより子どもを育てる費用が余分に必要になるとして加算される制度で、都市部で一人あたり月額二万三千二百六十円支給されています。