2007年2月9日(金)「しんぶん赤旗」
「浅川にダム建設」
長野知事 共産党は中止申し入れ
長野県の村井仁知事は八日、田中康夫前知事がダム建設計画を中止した浅川(長野市―小布施町)の治水対策について、下部に穴が開き、増水時だけ水をためる治水専用の「穴あきダム」建設を軸に進める計画案を発表しました。
今回の案では、浅川の旧ダム予定地に「穴あきダム」を建設し、上流にあるため池も治水に利用して川の流量を調節。河川改修や千曲川との合流点にある排水機場を増強します。年度末までに原案を作成し、住民への説明や関係機関との調整を経て、国への申請と認可を目指します。事業化は二○〇八年度を目標にするといいます。
村井知事の表明を受けて、日本共産党県議団は声明を発表し、知事にダム建設「中止」を求め申し入れました。
声明は、ダム予定地周辺は「危険な地滑り地」とのべ、「県が設置した浅川流域協議会への事前の協議もなく、一方的な『方針』決定は、今まで築きあげてきた県民参加の方向からも逆行した態度」と批判。穴あきダムをつくれば土砂、流木が穴をふさがないように上流部に砂防ダムが必要になることについて、きびしい県の財政からも無駄遣いになると指摘しています。
解説
無駄遣いの危険な事業
住民参加の結論を無視
長野県の村井仁知事が建設を表明した浅川ダムは、二〇〇一年の「脱ダム宣言」後、建設が中止され、県がダムによらない河川整備計画を提示していました。国の認可を得るための調整中の八月、村井知事が就任、「ダムを含めた検討」を表明していました。
同ダムは、治水や利水などの多目的ダムとして県が計画。七一年に調査を開始しましたが、有数の地滑り地帯のため、本体の位置が決定されたのは九一年でした。住民は危険なダム建設の差し止めを求めて九四年、訴訟を起こしました。当初予算約百二十億円のはずが、本体四百億円、付け替え道路二百億円に膨らみました。この間、直下に活断層の存在が指摘されました。
「脱ダム」宣言がだされた二〇〇一年、受注企業の談合を本紙が暴露。〇二年、工事契約は解除され中止となりました。
「脱ダム宣言」後、諮問機関の「長野県治水・利水ダム等検討委員会」が設置され、浅川については「ダムによらない治水」が答申されました。 流域住民の誰もが参加できる河川流域協議会を県が〇三年に設置。治水・利水対策の議論を住民主体で積み重ねてきました。全国にもまれな住民民主主義を発揮した経過を踏まえ〇五年、県は浅川の河川整備計画として、河川改修、ため池、遊水地を設けて治水する方針を決め、国と調整していました。
この間、浅川の河川改修が流域全体の八割まで進み、かつての洪水被害の大きな原因のひとつだった天井川は基本的に解消しました。問題は、千曲川との合流地点の内水災害です。増水で千曲川からの逆流を防ぐため堤防を閉め切ってしまい、逃げ場を失った水が氾濫(はんらん)するもの。水を千曲川に汲み出すポンプの能力向上や千曲川の改修が求められています。
「脱ダム」宣言は自治体財政を食い物にするムダな公共事業を見なおすところに本旨があり、公共事業費予算は減額されてきました。ところが、村井知事が初めて策定する来年度予算は、対前年度比で公共事業を増やしました。
今回の村井知事のダム建設方針は、災害防止や住民民主主義、自治体財政の面から幾重にも問題があります。(海老名広信)