2007年2月6日(火)「しんぶん赤旗」
主張
NHK受信料
義務化は国民との信頼を壊す
NHK受信料の支払いを義務化する放送法改定案が通常国会に提出されます。落ち込んでいるNHKの収入を回復するというのが理由です。
菅義偉総務相は、合わせて受信料の値下げを要請するとしています。
支払い義務化は、お金を払うかどうかというだけではなく、公共放送であるNHKのあり方にかかわる重大な問題をはらんでいます。
義務付けなかった放送法
放送法が定める受信料制度は、NHKが政府や財界、特定の団体の干渉を受けずに放送を維持していくことが目的です。放送法は国民がNHKと受信契約をすることを求めていますが、受信料支払いについてはふれていません。受信料の支払いが決められているのは、NHKが定めた放送受信規約です。
放送法が受信契約は義務付けながら、受信料の支払いは義務付けていないのは、公共放送は国民との相互の信頼関係にもとづく自由な契約で成り立つという精神からです。もし支払い義務を放送法で定めることになれば国民だけに一方的な義務が課せられることになり、信頼関係が根本から崩れることになります。
もとはといえば受信料の未払いが増えているのは、NHK自身が引き起こした問題です。職員による制作費流用など数々の不祥事、自民党幹部の政治介入を受けての番組改変と続き、視聴者の信頼が揺らぎ未払いが急増しました。NHKはまずこれらの問題を真剣に受け止め、改めるべきです。
肝心のNHKは、支払い義務化そのものには口をとざしています。が、昨年来、未払い者に督促状を発行し、一部は裁判に訴えました。受信料制度への理解を求めるより、支払い義務化を先取りするような動きです。
もちろん受信料の未払いが三百万件に上り、その三倍にもあたる約一千万件が放送法で義務付けられている受信契約もしていないというのは重大事態です。しかし、だからといって一足飛びに支払いを義務化するというのは飛躍がありすぎます。
かつて一九六六年と八〇年に、支払い義務化を盛り込んだ放送法改定案を政府が国会に提出したことがありますが、国民の批判が高まり、廃案になりました。こうした経過も踏まえれば、現在の制度を維持していくことこそ、国民の意思です。
受信料制度の見直しはこの間、政府や財界主導のNHK「改革」論議の中で叫ばれてきたものです。昨年六月、政府と自民・公明の与党は、受信料支払い義務化とともに、芸能・スポーツ番組制作部門を子会社に移行することを打ち出しました。公共放送の規模を縮小して、その分民間事業の拡大をはかろうという狙いであり、放送法改定がこうした流れのなかで持ち出されてきたことも、見過ごしにはできません。
政府の関与拡大の恐れ
とりわけ重大なのは、政府がNHKへの関与を強めてきていることです。菅総務相は昨年、NHKに拉致問題での放送を命令しました。それに続く受信料支払いの義務化です。NHKを思うままの放送局に変えようという狙いは明白です。
NHK番組の一方的な改ざんが争われた裁判で東京高裁は一月二十九日、NHKが自民党幹部の発言を受けいれて改変したのは公共放送としての使命に反すると断罪しました。
こうした判決をも踏まえるなら、NHKは政府の放送法改悪の狙いを受け入れるのではなく、国民の立場に立ち、公共放送として受信料制度を維持した道をすすむべきです。