2007年1月27日(土)「しんぶん赤旗」
過労死まで自己責任にされる
労働法制改悪 断念に追い込もう
市田書記局長・労働法制改悪阻止闘争本部長の訴えから
日本共産党の市田忠義書記局長・労働法制改悪阻止闘争本部長は、二十三日、東京の新宿駅頭で労働法制改悪を阻止しようと街頭から訴えました。要旨を紹介します。
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昨年末からホワイトカラー・エグゼンプションという耳慣れない言葉が大問題になっています。
長時間労働野放し・残業代取り上げ
財界や政府が横文字を使うときは国民をごまかすときだと思って間違いありません。一言でいうと、ホワイトカラーのサラリーマンの“長時間労働野放し、残業代取り上げ”法案です。
サラリーマンを一日八時間、週四十時間という労働時間規制の対象から外してしまって、何時間働いても残業代を支払わなくてもいいようにするための法案です。
日本経団連は年収四百万円以上のサラリーマンはこの対象にしようといっています。政府は「管理職の一歩手前」の人といいますが、サラリーマンのほとんどから残業代を取り上げようとする、とんでもない制度です。
あまりの評判の悪さに政府は「残業代ゼロ」などという名前をつけたマスコミが悪い。サラリーマンが時間にしばられずに自由に働く時間を管理できる「自己管理型労働制」といってほしかったと嘆いているそうです。
深刻な労働実態―首相は知ってるのか
安倍首相にいたっては、記者会見でホワイトカラー・エグゼンプションが導入されれば、長時間労働がなくなって家庭で過ごす時間が増え、少子化対策に役立つ、といいました。
ほんとうに腹が立ちます。いかに実態を知らないか。多くのサラリーマンが夜遅くまで仕事をしているのは、残業代欲しさのためだというんです。ほんとうはもっと早く済むはずの仕事を、夜遅くまでだらだらやっているのが悪い、と言わんばかりの暴言でした。
みなさん、いま多くのサラリーマンが、仕事で体を壊すほど長時間、働いています。仕事が多すぎるから長時間、働かざるをえないのです。リストラに次ぐリストラで、正社員がドンドン減らされた。仕事はふえるばかり。やってもやっても追いつかない、深夜まで働き、休日にも出勤して片付けざるを得ない。
先日、東京新聞で紹介されていた方は、四十一歳のとき出張先の東京でくも膜下出血で急死された。直前十カ月半で五カ国にのべ九回出張し、日数は計百八十三日に上った。最後の出張のとき、初めて「行きたくない」と家族に漏らした。しかし、出張を断れば左遷させられるかもしれない――だから断れなかった。
残業代払わない―れっきとした犯罪
通行中のみなさんのなかにも、多かれ少なかれ、そんな不安をかかえながら、仕事をされている方が、たくさんおられるのではないでしょうか。
しかも、いま残業代さえまともには払われていないのが実態ではないでしょうか。
残業をしたのに、残業代を払わないという「サービス残業」は労働基準法に違反するれっきとした犯罪行為です。私たち日本共産党は、職場で働くみなさんの告発をもとに国会で合計二百回以上、政府を追及してきました。その結果、政府は二〇〇一年度、サービス残業是正の通達を出さざるをえなくなりました。
それ以降の五年間で、不払い残業代を支払った企業は五千にものぼり、六十六万七千人に八百数十億円の残業代が支払われました。
しかし、これは氷山の一角です。埼玉労働局の調査では、75%の企業が「サービス残業」などの法律違反をしていました。多くの企業では「ビクビクしながら」犯罪行為である「サービス残業」をさせているといってもいいかもしれません。
それを摘発されるのがいやで、今度は、法律をかえて、残業代を払わないことを合法にしようというのが、ホワイトカラー・エグゼンプションのねらいなのです。
労働時間規制撤廃―過労死への道
マスコミが「残業代ゼロ法案」と書くのは当然のことでした。これが成立すれば、長時間労働はなくなるのでしょうか。「残業代が出ないから、働くのはバカらしい、早く帰ろう」と、安倍首相が期待したようになるのでしょうか。働いているみなさんが一番よくお分かりだと思います。
決してそんなことにはなりません。まず第一に仕事が減るわけではありません。さらに、「エグゼンプション」の導入によって賃金と労働時間との関係がなくなりますから、働かせる方は、どれだけ長く働かせても、なんの痛みも感じません。それどころか、「成果」によって賃金や人事を決める成果主義が文字通り徹底されるでしょう。
「成果主義賃金」といっても上司の恣意(しい)的な判断で評価が決まり、働く方にすれば賃金を引き下げられたくなかったら「成果」をあげるしかありません。「成果」をあげるためには徹夜してでも、それこそ「死ぬほど」働かざるを得なくなるのではないでしょうか。
この制度の導入を主張している経営側の代表の一人は、「さらなる長時間労働、過労死を招くという反発がありますが、だいたい経営者は、過労死するまで働けなんて言いませんからね。過労死を含めて、これは自己管理だと思います」といってのけました。
提出狙う政府財界―力あわせ断念へ
過労死まで自己責任にされる――これが、いま政府と財界が導入しようとしているホワイトカラー・エグゼンプションの非人間的な本質です。
だからこそ、批判の声が大きくなって、政府は今度の国会への提出は見送るといい出しました。しかし、それは制度のひどさを反省したからではありません。今出したらサラリーマンの反発をくらって選挙で負ける、そういう打算と党利党略にたっての判断からじゃないでしょうか。
必ず出してくるつもりでいます。経団連の御手洗会長も昨日(二十二日)、改めて国会に提出すべきだといいました。
みなさん、今国会への提出断念を確かなものにして、二度とこんなたくらみはできないところまで追い詰めようではありませんか。
日本共産党はそのために、私を責任者に労働法制改悪阻止闘争本部をつくりました。みなさんとともに人間らしい働くルールの確立めざして、全力で奮闘する決意であります。
ワーキングプア―労働法制の緩和で拡大
いったん労働法制が改悪されたら、どうなるか。それを端的に示しているのが、いま「ワーキングプア」とよばれる、働いても働いても貧しさから抜け出せない、そんな働き方を余儀なくされている人たちが、若者を中心に大変増えているという事態です。
パートやアルバイト、派遣や請負といった、いわゆる非正規雇用と言われる人たちは千六百万人をこえました。多くが年収二百万円以下です。
どうしてこんなことになったのか。決して自然現象ではありません。相次ぐ労働法制の規制緩和で、派遣労働が無制限に認められるようになった、三年間で雇用打ち切りという期限付き雇用が認められるようになったためです。
私は、昨年秋の参議院予算委員会で偽装請負問題を取り上げました。改悪された雇用ルールにさえ違反する悪質な働かせ方が、キヤノンや松下電器など日本を代表する企業で当然のことのようにまん延していたのです。
「異常だとは思わないか」という私の追及に、安倍首相は「異常だ。ワーキングプアを前提として生産計画が立てられているとしたらそれは問題だ」と答えざるを得ませんでした。
二つの無法やめよ、労働ルール改悪阻止を
偽装請負は派遣です。製造業への派遣は、一年以上たつと、派遣労働者を受け入れている企業が直接雇用の申し出を派遣労働者にしなければなりません。製造業以外でも、三年派遣で働いていれば、直接雇用の責任が派遣を受け入れている企業には出てきます。首相は、「法律は厳格に守らせる」ともいいました。
みなさん、総理が国民注視のテレビ放映された国会答弁でそう答えたのですから、実行させようではありませんか。経団連の御手洗会長は、私が予算委員会で質問した日の夕方、「法律は守らなければならないが、法律が厳しすぎるから、法改正を」といいました。
サービス残業を合法化するエグゼンプションと全く同じです。自分たちの違法行為は正さずに、法律のほうを自分たちに都合よく変えてしまおうというのです。信号無視を摘発されたら、「信号を無視してもよい」という法律に変えてしまおうというのです。こんなムチャクチャを決して許すわけにはいきません。
サービス残業と偽装請負、いまの法律に違反する二つの行為は直ちにやめよ。そして、これ以上の働くルールの改悪は絶対にやめよ、この声を日本中に広げようではありませんか。