2007年1月27日(土)「しんぶん赤旗」
首相の施政方針演説
これが「美しい国」なのか
担当記者はこう見る
安倍晋三首相が二十六日におこなった施政方針演説。「美しい国創(づく)り元年」などと“宣言”しましたが、その実態を担当記者はどう見たか―。
「格差」 言葉さえ消える
くらし
「ICT(情報通信技術)産業の国際競争力強化」「外国からわが国への投資を倍増する」。安倍首相が、国民が夢や希望をもつためとしてあげたのは、バブル期以上に大もうけする大企業へのさらなる支援策ばかりでした。設備投資が大きい大企業が恩恵をうけ、六千億円もの法人税減税となる「減価償却制度の抜本的見直し」も四十年ぶりだと誇ります。
はたして、これで国民の生活は豊かになるのでしょうか。
大企業が低賃金の非正規雇用の拡大で大もうけする一方で、ワーキングプア(働く貧困層)が深刻な社会問題になっています。施政方針演説には、貧困と格差に苦しむ人たちへ寄せる言葉はありません。昨年九月の所信表明演説では、まがりなりにも「格差」の存在を認めましたが、それすらも消えています。
「再チャレンジ支援」として並べる施策も、地方での雇用、女性の雇用をする企業への支援や、対象が非常に限定される「パートタイム労働法」改正など、抜本的な格差是正には不十分なものです。
OECD(経済協力開発機構)は、日本の相対的貧困率がアメリカに次ぐ第二位と高くなっているのは、低所得者や一人親家庭などへの社会的支援をはじめ、再分配が弱いためだと指摘しています。しかし、安倍首相には、これまで定率減税の廃止など庶民増税をおこない、格差を広げてきたことへの反省もありません。
母子家庭などへのケアをのべながら、生活保護世帯への母子加算を廃止し、低所得者の負担が大きい消費税増税の言明など、格差をさらに拡大する方向を示した演説でした。(吉川方人)
9条改悪の狙い 鮮明に
憲法
演説では、安倍首相の掲げる「任期中改憲」の狙いが“米国とともに海外で戦争ができる国”づくりにあることも鮮明に浮かび上がりました。
改憲を目指す「美しい国」の外交・安全保障分野の柱を「主張する外交」と特徴づけた首相が、真っ先に強調したのは「『世界とアジアのための日米同盟』は、わが国外交の要」。その具体策として、海外での武力行使を可能にする集団的自衛権の行使に向けた研究や、自衛隊を海外に送り出すための「法的基盤の再構築」などを押し出しました。
日米軍事同盟を地球規模に拡大し、日米両軍がともに血を流す協力関係へ―。首相の力点は、まさにここにあります。
そこまで首相が付き従うブッシュ米政権の先制攻撃戦略は、イラクで泥沼状態に陥っています。ブッシュ大統領の増派方針には、与党・共和党からさえ批判があがっています。なのに首相は、米軍のイラク軍事支配を支える航空自衛隊のイラクでの活動を挙げて、「わが国としてふさわしい支援を行っていく」と、継続する方針を示しました。
同時に首相は、「憲法の改正についての議論を深めるべきだ」と強調し、改憲手続き法案の「今国会成立を強く期待する」と力説しました。
自民、公明両党や民主党が「憲法改定とは別の中立的な法律」と弁明する改憲手続き法案の目的が、まさに九条改憲にあることを首相みずから証明した形です。
しかし、世論調査でも「(首相に)優先的に取り組んでほしい」こととして改憲を挙げたのは、わずか7%(「読売」二十三日付)。首相の“改憲演説”には自民党席の拍手も、まばらでした。
議場から出てきた自民党の国防族議員は渋い表情を浮かべ、いいました。「憲法改正といっても、国民との間には距離感がある。大騒ぎしてやることじゃないんだ」(田中一郎)
「議論期待」まるで人ごと
「政治とカネ」
「美しい国」の正体見たり。こんな思いにさせられたのが、「政治とカネ」に関する部分でした。
閣僚を含む「事務所費」疑惑などで国民の政治不信が深刻になっているにもかかわらず、首相がふれたのは、「(政治家は)常に襟を正していかなければなりません」「政治資金制度のあり方について、各党・各派において十分議論されることを期待します」の一言。まるで人ごとのように片付け、首相としての任命責任に何らの反省もなければ、真相究明の意思も示しませんでした。
「事務所費」問題の核心は、家賃のいらない議員会館を「主たる事務所」にしながら、巨額の「事務所費」を計上していたことが、現行の政治資金規正法にも反する虚偽報告の疑いがあることにあります。国民は、生活苦にあえいでいるのに、政治家は、企業・団体献金をもらったうえ、国民の税金である政党助成金を食い物にしているのではないかという怒りがわいています。この疑惑に正面から応えることなしに、政治を語る資格はありません。
疑惑にフタをしたまま、首相は、「美しい国」の言葉を、昨年九月の所信表明演説の八回につづき、今回の施政方針演説でも七回にわたり連発しました。これを「醜い政治」といわずになんというのでしょうか。(小泉大介)