2007年1月24日(水)「しんぶん赤旗」
なぜ急ぐ 改憲手続き法案
与党・民主が共同歩調
安倍晋三首相は二十五日から始まる通常国会で九条改憲の条件づくりとなる改憲手続き法案の早期成立を指示しています。自民、公明の与党は今国会の最重要法案と位置付けています。民主党は参院選への影響がでないように採決時期を探っていますが、共同「修正」の方向付けまで主導してきたように、中身では与党と歩調を合わせています。なぜ法案成立を急ぐのか。憲法改悪との関係、法案自体の問題点などを見てみます。
3年後の国民投票実施へ
首相任期中の改憲狙う
安倍首相は就任以来、繰り返し任期内の改憲実現を言明してきました。安倍氏の自民党総裁としての任期は最長で二期六年、二〇一二年がその期限となります。
一方、日本経団連も元日に発表した新しいビジョン「希望の国、日本」で「2010年代初頭までに憲法改正の実現をめざす」としています。
背景にはアメリカからの強い改憲圧力があります。アーミテージ元国務副長官は、九条を「日米同盟の邪魔」と公言しています。
改憲勢力は、こうした期限で改憲を実現しようと、今国会で手続き法案を成立させ、その後「早期に与野党間で憲法改正の論議を開始したい」(自民・中川秀直幹事長)と日程を描いています。参院選で憲法を争点にし、国民的議論を盛り上げることも狙っています。
そのことは法案自体とも関係があります。自公民の「修正」合意では、改憲のための国民投票法は成立から三年後に施行されることになります。今年法案を成立させれば二〇一〇年には国民投票を実施する法律上の条件が整います。
今年七月には参院選が行われるため、選挙が近くなれば法案の扱いは難しくなるうえ、参院で審議未了になった場合には、廃案となるという事情もあります。
さらに法案には単に手続きを整備するにとどまらず、本格的な改憲論議の舞台づくりを含んでいます。国会に改憲案を発議する役割を担う「憲法審査会」の設置です。同審査会は法案成立後、次の国会から発足します。今国会で法案が成立すれば秋には臨時国会で改憲案づくりの論議をはじめることが可能になるのです。
焦点は9条改悪
海外での軍事行動に道
安倍首相が狙う改憲の焦点は九条です。
安倍首相は昨年十一月英紙フィナンシャル・タイムズなどのインタビューに応じた中で、改憲のテーマとして「時代に合わない条文として一つの典型的な例は九条だろう」とのべました。
なぜ九条改憲なのか。
安倍首相は昨年秋の自民党総裁選の中で「日米同盟をより効果的に機能を向上させるため」、憲法で禁じられている集団的自衛権の行使を検討していくとのべました。さきのインタビューでは「日本を守るという観点から、また、日本の国際貢献に対する期待に応えるために改定が必要」とのべ、海外での軍事活動に重要な狙いがあることを明確にしました。
アーミテージ米元国務副長官は「第九条による制約が時に日米の協調を妨げる場合がある」とし、ペルシャ湾での米艦隊援護やイラクでの米兵救援などを例示(『文芸春秋』〇四年七月号)。さらに「日本がアメリカと対等なパートナー同士として共同活動するには、日本も他の諸国同様、集団的自衛権を行使できる状態でないと、実際に支障がある」(『Voice』〇六年九月号)と、九条改憲を求めています。
〇五年十一月に自民党が発表した「新憲法草案」は、現行憲法第九条二項の戦力不保持規定を削除し、第九条の二として「自衛軍を保持する」と明記。自衛軍は「国際的に協調して行われる活動」を行うとして、無限定な海外での軍事活動に道を開こうとしています。
自民党本部で「新憲法草案」とりまとめの裏方を務めた田村重信氏は、海外での武力行使を可能にする集団的自衛権の行使について「(新憲法のもとで)当然可能になります」「新憲法草案には明記されていませんが、これは『書かなくても国家として当然、認められている権利』との意見に基づいて」いるとしています。
安倍首相は十二日、北大西洋条約機構(NATO)本部で演説し「今や日本人は自衛隊が海外で活動することをためらわない」と言明しました。
防衛省設置で海外派兵が自衛隊の本来任務とされるなか、海外での武力行使を狙う動きが強まる危険があります。
有権者2割台の賛成で承認?
改憲しやすい仕組みへ
改憲案を通しやすくするシステムをつくり上げるのがもう一つの法案の狙いです。
承認要件
国民の「承認」のためには国民投票での「過半数」の賛成が必要です。この過半数をどう定義するかは憲法にも規定がありません。与党案は有権者数、総投票数、有効投票総数のうち、最も低い基準となる「有効投票総数の過半数」としています。改憲案を通しやすくするため露骨にハードルを低く設定しているのです。
諸外国には有権者の一定の割合の投票で初めて国民投票が成立する制度がありますが、与党案、民主党案ともこうした最低投票率の制度も設けていません。そのため五割の投票率の場合、二割台の賛成で改憲案が承認されることになりかねません。
運動規制
国民投票運動における規制として「公務員等・教育者による地位利用による国民投票運動の制限」が依然として残っています。
法案審議の過程で罰則は削除することになりましたが、「地位利用」行為は「違法」と評価されることに変わりありません。本来、主権者としての意見がもっとも自由に表明されなければならない憲法改定についての投票で、自由な意見表明を制限することは趣旨にまったく反します。さまざまな「処分」の根拠とされるなど公務員や教員の言論に対するプレッシャーとなることは間違いありません。
憲法審査会
改憲案の発議権を持つ機関の「調査」であり、法案審査権を持たない衆参憲法調査会の「調査」とは異なります。本格的改憲論議の舞台となることはまちがいありません。
国民投票法の施行期間の三年間は権限を「調査」に限定するので、改憲論議は当面始まらないともいわれますが、ごまかしです。憲法審査会が設置されれば、共同の改憲案づくりへ向けた新しい議論の場にしようという狙いは明白です。
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国民は望んでいない
改憲手続き法案の成立を国民は望んでいるのでしょうか。十三、十四両日実施のJNNの世論調査では、通常国会で「成立させる必要はない」との回答が47%。「成立させるべき」と答えた41%を6ポイント上回っています。
そもそも安倍政権に「憲法改正」を期待している人は各種世論調査でもごくわずかです。「読売」(二十三日付)の世論調査でも「安倍内閣に優先的に取り組んでほしいもの」(複数回答)として「憲法改正」をあげた人は7%。列挙された十七課題中、下から二番目という低さです。
昨年十二月七日の衆院憲法調査特別委員会では、法案提出者も「ぜひつくってほしいという声があるかといえば、別にない」(民主・枝野幸男議員)と認めざるをえませんでした。
“九条守れ”の国民運動を背景に、「九条改正反対」の世論が増えているのも最近の特徴です。
法案の狙いが「戦争をする国づくり」という安倍首相らの改憲路線と一体であることが明らかになればなるほど、平和を求める国民との矛盾は広がらざるをえません。