2003年1月14日(火)「しんぶん赤旗」
トヨタ自動車労働組合(自動車総連加盟)の執行部が七日、賃金のベースアップ要求を見送ると表明したことは、今春闘を一気にクライマックスへ押し上げました。低迷する日本経済のなかで、史上最高の利益を更新し続けるトヨタ自動車の動向は、今春闘全体に波及しかねないもので、“ベアは論外、定期昇給の凍結・見直し”と、賃下げ春闘をねらう財界の思惑通りの展開に、連合内に衝撃が広がっています。
「きわめて残念なことだ。(成果配分を)別枠で要求できるならば、ベースアップとしての要求に踏み込むべきではなかったか。かなり疑問を感じざるを得ない」。連合の笹森清会長は八日の会見で、抑え気味に、しかし強い声で語りました。
「影響は甚大だ」。ある産業別労組幹部はこういい、「あのトヨタでさえ…となるだろう」と、交渉がいっそう厳しくなることを懸念します。別の産別幹部は、「どこへいってもトヨタの話でもちきりだ」と話し、渋い顔をみせました。
トヨタ自動車は昨年、日本企業として初めて一兆円を超える経常利益を計上しました。今期はこれをさらに上回り、一兆四、五千億円に達する見通しです。ため込み利益(内部留保)は、一年間で六千七百六十八億円積み増しし、七兆九千四百十九億円もの巨額です。従業員一人あたりの内部留保額は三千二百十九万円にもなります。(全労連『検証・大企業の連結内部留保』〇三年版)
空前のもうけをあげている日本のトップ企業・トヨタの労組がベア要求を断念するという「土俵に上がる前に白旗をあげた」(トヨタ労働者)背景には、“ベアは論外”と主張する財界の強い姿勢があります。
トヨタ会長の奥田碩氏が会長を務める日本経団連は昨年末、労働者が賃上げを要求してたたかう春闘を「終えんした」と否定し、「ベアは論外。定昇の凍結・見直しも労使の話し合いの対象になり得る」(春闘対策方針「経営労働政策委員会報告」)と強調しました。
その翌日、奥田氏はトヨタの春闘交渉についても「原則として定昇はやるが、ベースアップはやらない」と発言。史上最高の利益をあげても、労働者の生活向上にはまわさないという、むき出しの資本の論理です。
いまや春闘の“リード役”とよばれるトヨタの労組がベア要求もしないとなれば、業績が低迷する多くの企業で、いっそう賃金抑制の傾向になりかねません。
トヨタの職場では「元気の出る春闘をトヨタがやらなくてどこがやるんだ。これじゃ、車も売れんぞ」「残業が減って月十万円を超える減収で、生活のメドが立たない。生産性向上で仕事はきつくなっている。もうけた会社にベアで答えさせるべきだ」と労働者から怒りが広がっています。