2003年1月8日(水)「しんぶん赤旗」
秋田県内の工場に転籍しろ、それがいやなら会社を辞めろ――こんな選択を埼玉県在住の労働者に迫っている会社があります。自動車部品製造のボッシュオートモーティブシステム(本社・東京)です。どうしようかと悩む労働者や家族らが集まり、「ボッシュ・リストラを考える家族の会」が結成されました。(内野健太郎記者)
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年も押しつまった十二月二十九日にもかかわらず、ボッシュの主力工場のある埼玉県東松山市の集会場に労働者らが集まってきました。「家族の会」の学習・交流会と親ぼくをかねた懇親会です。弁護士を囲み、「配転」や「転籍」について学んだあとは、持ち寄った一品料理をつつきながら交歓しました。
「あの寒さは半端じゃないよ。朝起きたら、寮の壁は結露してるし、車は雪に埋もれてる」というのは、この夏から秋田県横手市の工場に第一陣として出向させられ、正月休みで帰省してきた労働者たちです。「秋田では不平不満だらけだよ。みんなでなだめあってる」の言葉に、「でも、(会社を)辞めたほうも地獄だよ。再就職できなくて家にいるから、こんなに太った」と、出向を拒否して、退職に追い込まれた労働者がこたえます。
ボッシュオートモーティブシステムは、合併した旧自動車機器の労働者約五百人を退職させ、別会社の日立ユニシアオートモーティブ(ユニシア)への転籍を計画。そのうち二百人は、埼玉県内の工場からユニシアの秋田工場へ配転させようとしています。転籍になれば、賃金が二割程度カットされます。一方、ユニシアの秋田工場でもリストラがすすめられ、全国配転や約四百人の首切りがおこなわれています。そこにボッシュから転籍してきた労働者二百人を配転しようという異常な“玉突き人員削減”計画です。
対象者は、「転籍に関する同意書兼退職願」を一月中にだすよう迫られています。会社側は転籍説明会を開き、全員が転籍するまで何回でも面談をしたいとのべています。すでに昨年夏には、第一陣五十五人が秋田への出向か、それができないなら退職をと迫られ、三十一人が秋田に出向させられています。この出向者も転籍するよう迫られています。
配転・転籍計画がすすむなか、「みんなの声をきいてみよう」と労働者有志が行動をおこしました。家庭を一軒一軒訪問すると、「おれは辞めさせられた」とすでに退職に追い込まれた労働者も少なくありません。「おれが首をつれば(生命保険で)家族を救ってやれる」との声までありました。
訪問を続けるなか、通称「愚痴る会」(「遠隔地配転、玉突き配転、転籍(移籍)、退職強要、復職を考える会」)が昨年秋に結成されました。NTT労働者が組合所属の違いを超えてリストラ問題を考えようと結成した「ぐちる会」の運動にヒントをえたものです。
「愚痴る会」は、十回近くの準備会や学習・交流会を開いてきました。「案内状が来た」と毎回、多くの労働者が参加してきました。「一人息子が秋田に行かされた」という母親は、「もう辞めたいといいだしている」と訴えました。弁護士を前に「出向していても転籍しなくてすむのか」「住宅ローンは秋田に行けない理由にならないのか」など真剣な質問が続きます。
「愚痴る会」は昨年暮れには家族も参加する「家族の会」へと発展。十二月二十九日の学習・交流会では、講師の山崎徹弁護士が、賃金切り下げなどをともなう転籍は、労働者本人の同意が必要であることを解説。“玉突き配転”は配転に業務上の必要性がないことの証明で、会社のやり方には道理がない、と強調しました。
「きょう参加して、目からうろこが落ちた」と発言したのは、秋田に出向中の労働者。「会社は、転籍か辞職か、二つに一つしか道はないといっていた。上から言われて、それしか道はないと思っていた」といいます。別の労働者が「会社から、正月に家族とよく話し合って転勤できるよう解決してくださいといわれている」と発言すると、「解決できませんでしたと言おうよ」の声がとびました。「こんな学習会が辞める前にあればよかった」と、復職を勝ち取る決意をしている労働者もいました。
「家族の会」では、学んだ内容を広く知らせていこうと、「転籍同意書を提出しないで、転籍の意思がないことをしめしましょう」「退職勧奨を継続すれば不法行為です」と訴えるビラも作成。秋田での配布も計画しています。地域でも「ボッシュ問題と東松山市の地域経済を考える会」が結成され、地域労連や民商も協力し、運動がひろがっています。
秋田工場配転中の労働者は、「一家の大黒柱が単身赴任させられてみじめだよ。でもおれはあきらめたくない。だからきょう(学習会を)のぞいてみたんだ。もう少し勉強してみるよ」と語っていました。