2003年1月6日(月)「しんぶん赤旗」
愛知県刈谷市に本社を置くトヨタの部品メーカー、アイシン精機のサービス残業が是正されたのは、労働者・家族からの訴えがきっかけです。
一昨年のアイシン労働組合の大会で、組合役員から「サービス残業がある。とりくまないのか」と発言がでたほど、職場ではサービス残業が大問題になっていました。
労働基準監督署に告発が相次ぎ、監督署は抜き打ちの臨検監督に踏み切り、昨年七、八月にはサービス残業がいくつもの職場で発覚しました。是正勧告を受けた会社は十月、労働組合と「残業実態調査」にとりくみ、その結果にもとづいて未払い賃金を支払いました。
是正勧告を受けたにもかかわらず、技術開発研究所はクリスマスイブの夜も深夜まで明かりがともったままでした。
午後十一時。コートの襟を立て、裏門から出てきた三十代半ばの男性は「ないものと思っていたので、喜びがあります」とほおを緩めました。支払われたのは、約五十時間分の十数万円。「でも一部ですから。昨年は休みもなく働いたのに」と不満をにじませます。
法の遡及(そきゅう)期間は二年間ですが、是正は六カ月間だけ。不十分な是正に、二十代の労働者も「払うなら、前の分もちゃんと払ってほしい」といいます。
「支払われたのは三百時間弱」という三十代前半の男性は「今後もきっちり払われるべきです」と、語気を強めました。
「ちゃんと説明してくれたら…」と三十代前半の男性。「上司から何の説明もなく、調査表に記載しなかった」といいます。残業代が支払われる上限は月約七十時間までですが、「プラス月百時間はサービス残業した時もあった」と打ち明けました。
今回支払われた残業代は、三六協定(時間外労働を例外的に認める会社と労組による協定)を超えたため、不払いとなったものが大半でした。
協定内容(特別条項)は、原則年三百六十時間を大幅に超える年八百四十時間です。これは、厚生労働省の過労死認定基準も超える数値です。
「今月は切らんといかんから貸しといてな」。現場では月半ばを過ぎると職制からこんな声が飛び交います。“貸し”とは、残業時間が三六協定を超えたから、翌月まわしにするという残業代のツケまわしのこと。サービス残業そのものです。
トヨタ自動車の好調を反映し“バブル期に匹敵する繁忙”というアイシン精機では、工場の多くが二十四時間フル操業。にもかかわらず、人員は本来の稼働時間である昼間八時間、深夜八時間にも足りない体制のため、ツケは毎月たまっていく一方です。
とりわけ多いのが、生産数や品質の管理を行うオペレーターや現場の末端職制JP(旧班長)。通常でも毎日四時間残業が見込まれ、トラブルが発生すれば六時間の残業に。さらに休日出勤が月に四〜五回もあります。
「休みの日は遊ばんと寝ている」という二十代後半のオペレーターは、「現場には何の報告もないし、何も変わっていない」と指摘します。「だれかが言ってくれたようで貸しを返してもらえてよかった、とみんな思っている。監督署から是正されたなんてだれも知りません。去年の貸しはそのままだし、今月も貸しがある」と語りました。
職長の多くは、土曜日出勤しても未払い賃金を請求していません。
「いかなる理由があるにせよ法順守は徹底すること」。昨年十月に開催したアイシン精機労使懇談会で、豊田幹司郎社長はこう強調しました。
また、会社の企業行動倫理委員会は、違法行為を社外に漏らさないため「相談窓口」の活用を社員によびかけています。「マスコミ、行政などに対して情報を提供することになってしまうと、会社にとっての信用失墜、収益ダウンなど大きなダメージにもつながりかねません」といい、対象の事柄は「職場ぐるみ、会社ぐるみの不法行為」などとし、具体例に「サービス残業」「資料改ざん」をあげています。違法なサービス残業を表に出したくないという企業の意図があらわれています。
「『法順守』をいうなら、今回是正した六カ月間にとどまらず、二年間すべての不払い残業代を支払うことこそ、ただちに行うべきだ」と労働者たち。ところが、ある工場では、今回の精算のさい、労働者に精算金額の確認と、過去についてこれ以上は請求しないという“確認書”をとっています。職場では「こんな姑息(こそく)なやり方は撤回すべきだ」との声が広がっています。