2002年12月24日(火)「しんぶん赤旗」
政府は、日本育英会など五法人を統廃合し、新しく独立行政法人を設置するための関連法案を、来年一月から始まる通常国会に提出しようとしています。文部科学省の検討会議はすでに、この独立行政法人のあり方をまとめた最終報告を出しています(十二日)。二〇〇四年に新たな学生支援機関をつくる、といいますが――。
日本育英会を廃止してつくる新法人の業務は、経済的支援(奨学金事業)、国際交流、学生相談など四項目です。
中間取りまとめ(十月)からの変更点は、おもに三つです。(1)新機関の名称を「日本学生支援機構(仮称)」とする(2)「債務保証制度の導入」となっていたのを「機関保証制度」とした(3)大学院を卒業した教育・研究職の返還免除制度は廃止。「若手研究者を対象とした競争的資金」の充実と、「優れた業績をあげた大学院生を対象とした返還免除制度」の導入をうちだした――。
中間取りまとめに対しては、「育英会奨学金が金貸し業に限りなく接近する」との懸念や批判が相次いでいました。しかし最終報告はそうした批判にいっさいこたえないまま、学生の新たな負担増、取り立ての外注化、大学院生の返還免除職制度の廃止など、これまでの内容をまったく変えていません。
現在八十万人もの奨学生の勉学生活を支えている育英会奨学金にこうした制度を導入すれば、どうなるでしょうか。
「機関保証制度」は、単に「債務保証制度」の言い換えにすぎないことが、それぞれの報告を読み比べるとはっきりわかります。
債務保証制度は、奨学金の貸与を受ける学生が保証機関に保証料を支払い、保証を受けなければ奨学金が借りられない制度。奨学生に保証料の負担が新たにかかります。文科省の試算では年間二万四千円から三万六千円。最終報告は同制度への国の財政的関与にはいっさいふれていません。
奨学生からの資金回収は保証機関が引き継ぎます。「電話督促の外部委託」も盛り込んでいます。
債務保証制度の導入にあたって、最終報告は「個人信用情報機関を利用することになる」とのべ、個人信用情報機関に奨学生の情報を流すことも明言しています。どこまで奨学生の人権が守られるかは疑問です。
大学院生の返還免除職制度は、教育・研究職についた場合に奨学金の返還を免除するというものです。これを廃止し、ごく限られた大学院生を優遇しようというのが、「若手研究者を対象とした競争的資金の充実」「優れた業績をあげた大学院生を対象とした卒業時の返還免除の制度の導入」です。
業績が対象となれば、業績が上がりやすい研究分野、必ず結果が出る研究分野に学生が集中しかねません。基礎研究がないがしろにされる危険性が強く、研究者への道を閉ざすことになります。
最終報告を貫いている姿勢は「合理的、効率的・効果的」の名のもとに、「十八歳以上自立型社会の確立」と称して経済的な負担と責任を学生に負わせ、国は関与しないという、憲法が保障する教育の機会均等の放棄です。先進諸国の奨学金制度は返還の必要のない給与制が主流であることからみれば、最終報告の内容は世界の流れにも逆行しています。
日本育英会を廃止し独立行政法人化する最終報告に対して、育英会労働組合や教育関係者、学生・青年組織などが結成している「日本育英会の奨学金制度廃止に反対し、拡充を求める各界連絡会議」は、「奨学金の学生ローン化に反対する」との三輪定宣会長(千葉大学教授)の声明を出しています。
声明は、最終報告の内容は中間取りまとめと基本的に変わらない、としたうえで、最終報告にある「機関保証制度」は「奨学金への公的支出を抑え、銀行など民間業者が、滞納リスクを避け、学生に金を貸しやすくするための『学生ローン』の市場開放・拡大策」だ、と批判しています。
「このような方策は、奨学金の理念や国際水準に反し、超高学費、長期不況のもとで学生の借金づけ・取り立てを強化するなど、明らかに奨学金の改善に逆行するもの」であり、「充実した修学条件の整備は、日本の存亡にかかわる事業」だとして、給付制を根幹とした奨学金の抜本的改革を求めています。