2002年12月11日(水)「しんぶん赤旗」
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通信機器の国内トップメーカー・NEC(東京都港区、西垣浩司社長)が、過去二年間のサービス残業(ただ働き)代を十一月末の賃金支払日に支払ったことがわかりました。規模は、本社・田町地区の百人を超える労働者に平均百五十時間分の割増賃金で、総額およそ四千五百万円。職場の労働者有志が労働基準監督署に是正を求めた成果です。(畠山かほる記者)
「驚くほどうれしい。粘り強く訴えていけば大企業を動かせる、違法は正せると実感しています」。監督署に申告したNEC田町地区に勤務する橋場伸一さん(50)は、笑顔で語りました。
同地区の技術者・菅和則さん(49)と山崎栄一さん(52)は「サービス残業の存在を認めずにきた会社が是正勧告を受け、未払い賃金を支払ったことは画期的」と喜びます。
職場では「ありがとう」と労働者が声をかけてきたり、是正を知った他の事業場の何人もの労働者が「うちでも(監督署交渉を)やらないのか」とたずねるなど、反響が広がっています。
日立、三菱、沖など大手電機メーカーで導入したニセ裁量労働制がサービス残業の温床となり、この間、労働者や家族、日本共産党組織の告発で是正されてきました。今回の是正は、この流れにそったものです。
橋場さんら働きやすい職場をめざす労働者有志による「NEC労働者懇談会」メンバーは、昨年四月以降、十五回にわたって監督署を訪問。同時期に厚生労働省がだしたサービス残業根絶通達にもとづいて出退勤時間の把握と、職場のサービス残業の是正を訴え続けてきました。
NECは九八年、主任クラスを対象にニセ裁量労働制「Vワーク」を導入。一日一時間分の残業代にあたる手当(当初は五万三千円の固定額)を支払うかわりに、違法なサービス残業を事実上労働者に強いるものです。この五年間のリストラで五人に一人強(単独で22%)を削減し、人手不足に拍車がかかり際限のない長時間労働が横行。精神疾患など病気になる労働者が増えていました。
橋場伸一さんらはサービス残業をしていませんでしたが、「違法なただ働きをなくし、健康でいきいき働ける職場にしたい。会社にとってもプラスになるはずだ」との思いから告発を決意したのです。その職場実態は調査に入った監督官が「あなたの職場はひどいね、休んでいる人が多い」と、びっくりしたほどでした。
サービス残業の温床となってきたニセ裁量労働制「Vワーク」は今年十月、法的な裁量労働制に移行しました。
裁量労働制は、仕事の方法を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要があり、仕事の手段や時間配分の決定などについて、使用者が具体的な指示をしない業務であることが大前提です。つまり、勤務時間でいえば、出退勤時刻は労働者本人の自主的な決定に任せなければなりません。
ところが、NECの裁量労働制「新Vワーク」は、「始業時刻である八時三十分以降に出社する場合は、前日までに行き先表示板等に出社予定時刻を明記すること」とし、「何の連絡もなく出社予定時刻に出社しない場合は、遅刻と同様、上司から厳しく指導する」と主張しています。「Vワーク適用を除外することも検討する」とも。Vワークを外されると、労働者の年収は五十万円前後も減額になります。
こんな働き方に裁量性があるといえないことは明らかです。しかも、裁量労働制の対象労働者は八千人もいます。
「会社は、サービス残業を追及され逃れられないと観念したから、裁量労働制を導入したのだ」と菅和則さん。「ただ働きを職場から一掃する一歩を築いた。『Vワーク』を正していくことがこれからの課題だ」と橋場さんたちは指摘します。
今回、サービス残業を払わせたのは、ほんの一部です。NECが管理職を除く本社・田町地区の社員全員に実施した、過去二年間の残業実態調査が不徹底だったからです。社員全員のはずなのに、この調査を知らない労働者が少なくありません。会社は社員に調査趣旨を文書で示さず部長に口頭で報告させ、部長によっては説明も報告もしないものもありました。
橋場さんはいいます。「たたかいはまだまだ終わらない。気をゆるめずがんばろう」