2002年11月30日(土)「しんぶん赤旗」
大幅賃上げを要求する英国の消防士たちのストが長期化の様相を見せています。背景には民間と比べて待遇改善がおろそかにされてきた公共労働者全体の不満があり、ブレア労働党政権の足元を揺るがしています。(ロンドンで田中靖宏 写真も)
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「組合の要求が次第に理解され、国民の支持が広がっているのを感じる」
ドラム缶のたき火の前で、消防士のイーマン・バークレー氏(47)が言います。
ロンドン中心部サザークブリッジ・ロード消防署前。ピケを張る三十人ほどの組合員たち。通り過ぎる車の二ないし三台に一台は連帯のクラクションを鳴らしていきます。
バークレー氏はこの消防署に併設されている訓練センターの指導員です。採用された新人はここで四カ月間の教育・訓練を受け、四年間の見習い期間の後、正規の消防士になります。その人たちの平均年収を二万五千ポンド(約四百七十万円)に引き上げてほしいというのが今の消防士組合(FBU=組合員約五万人)の基本要求です。
組合側は当初、平均40%の賃上げ要求を掲げました。これには国民の中にも「非現実的」との批判や疑問がありました。それがたたかいの広がりで当局と組合の立場が明らかになり、国民の理解が広がってきたとバークレー氏は語ります。
確かにどの世論調査でも、ストへの支持と反対がほぼ拮抗(きっこう)しています。「国民の安全を危険にさらす」―当初、マスコミはこぞって組合のスト方針を批判していました。それが次第に政府の対応の問題点が指摘されるようになっています。
二十二日の第二波スト入りの直前、直接の雇用者である地方自治体の代表と組合の交渉で、三年間で16%の賃上げと勤務形態の「近代化」に基本合意しました。他の公共部門の組合も10〜20%の賃上げを巡って交渉中で、労使の主張はかけ離れた水準ではありませんでした。
ところが政府の責任者だったプレスコット副首相が直前になって介入し、合意をほごにしました。組合と当局側は「クーデター」と呼んでともに政府を批判しました。
政府が合意内容を真剣に検討する姿勢をみせなかったことがとりわけ組合員の怒りを買っています。あいまいな政府の姿勢はその後も露呈します。プレスコット副首相が16%合意は交渉再開の出発点になると言えば、ブラウン蔵相が全面拒否するなど、混乱したメッセージを出しているのもその一例です。
ブレア首相は二十五日、改めて政府の立場を説明。公共部門の大幅賃上げはインフレと経済破壊につながると拒否し、業務体制の「近代化」が不可欠だと強調しました。
「近代化」についてバークレー氏は、「問題は政府側が近代化の中身を明らかにしないこと」だと反論。当局が効率化の一環として導入しようとしている夜間体制の人数の削減は、消防体制の根本的な後退につながると警戒しています。
プレスコット副首相は二十六日の議会で、「近代化」は最高一万人の人員削減につながると説明。組合側は政府の狙いが明らかになったと反発しています。
英労働組合会議(TUC)は九月の大会で消防士のたたかいに支持を打ち出し、モンクス書記長も交渉の一翼を担ってきました。それだけに政府の「拙劣な対応」を批判しています。このほか公務員組合や鉄道運転士組合、運輸一般労組などが消防士組合支援の姿勢を明らかにしています。
これらの組合の中ではブレア政権が「サッチャーと変わらぬ反労働者・反労組政策」をとっているとの不満と批判が次第に広がっています。伝統的な労働党支持政策を見直せとの声も高まっています。消防士ストは労組のそうした動きに拍車を掛ける可能性があると指摘されています。