2002年11月14日(木)「しんぶん赤旗」
「大臣、『このままでは生活できなくなる』という声をどう受け止めますか」――十三日、衆院通過を受けて参院本会議でおこなわれた「母子寡婦福祉法等改正」案の質疑。児童扶養手当を削減する改悪案の撤回を求める日本共産党の井上美代議員の質問に、衆院で賛成した他党の議員からも「ひどい内容だ」と声が上がりました。
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改悪案には、衆院で自民、公明、保守、民主の各党が賛成しました。
児童扶養手当は「児童の心身の健やかな成長に寄与する」ために設けられました。子どもが十八歳になる年の年度末まで支給されています。
改悪案では、手当の支給開始から五年がたつと最大で半分まで減額できるとしています。父親からの養育費も新たに母親の収入として計算し、受給金額を削減します。
これに先だち八月から支給額削減が実施され、満額支給(月額四万二千三百七十円、母と子一人)の所得制限を二百四万八千円から百三十万円に引き下げるなどの改悪で受給者の約半数の三十三万人が減額されました。
五年間の間に就労支援など「自立支援」をおこなうから大丈夫だというのが政府の言い分です。
井上議員は、「わずかな頼りを切るなんてあまりにもひどすぎます」という母親の切実な訴えを紹介。「母子家庭の命綱である児童扶養手当の削減を真っ先におこなうことが、どうして自立支援策といえるのか」と迫りました。
仮に五年で収入が増えれば、現行制度でも所得制限によって扶養手当は減額か支給停止となります。五年後に手当を減額する制度を新たに設ける理由は何もありません。
しかも、子どもの成長につれて支出は増えるもので、教育費負担だけでも公立高校で年平均三十三万円もかかります。
井上氏は、こうした実態を示して、今回の改悪が「児童扶養手当の趣旨を変質させるものだ」と指摘するとともに、十八歳の年度末までの支給は「母子家庭の子どもの教育を受ける権利を保障するうえで最低限必要な施策だ」と強調しました。
坂口力厚労相は「児童扶養手当の趣旨を変更するものではない」とのべながら「離婚後の生活の激変を緩和し、自立を促進する制度として見直す」と答弁。
一方で、五年後にどれだけ手当を削減するかについては、「自立支援策や離婚状況などをふまえ幅広い関係者の意見を十分に聞いて制定したい」と答えました。
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法案には、母子家庭の「自立」を支援するとして、(1)就業支援事業(2)能力開発および常用雇用への転換支援事業――が盛りこまれています。
これにどれだけ実効性があるのか。
井上氏は、パート勤めの母親を常用雇用にした事業主に三十万円の奨励金を出す「常用雇用転換奨励金」の対象者がわずか千人にすぎないことを明らかにしました。
これで常用雇用へ移行する見込みがあるのか。「やってみないと分からない」と坂口厚労相が答弁をしていることをあげて、あまりにも無責任だと批判しました。
法案では、「養育費の確保」対策も支援策の柱にすえられています。
しかし、離婚のさい父親と養育費を取り決めているのは35%。実際に受け取っているのは20%にすぎません。
しかも法案では、母親には「扶養義務の履行を確保しなければならない」と直接の努力を課す一方で、国には「広報その他の措置」に務めるとしているだけです。
「さまざまな事情をへて離婚した母親が、養育費を前の夫に請求することが、どれほどの精神的苦痛を与えるのかまったく考慮していない」
井上氏はこうのべ、第三者機関による養育費の立て替え払いや請求の代行制度などを検討すべきだとのべました。
坂口厚労相は「日本で強制的徴収制度を直ちに導入するのは困難」と答え、養育費の確保に何の保障もないことが明らかになりました。
「自立の名のもとに、自己責任を強要することは母子家庭の生活保障への責任を放棄するに等しい」。井上氏はこうのべ扶養手当削減を撤回するよう重ねて求めました。
母子寡婦福祉法等改悪案の参院本会議質疑があった十三日、日本共産党国会議員団は参院議員面会所で緊急状況報告をおこないました。
生活と健康を守る会、新日本婦人の会、全労連女性部などの参加者を前に、本会議質問に立った井上美代参院議員が「荒波に母子をほうり出すもっとも冷たい政治。衆院で賛成した民主党内でも意見が出ています。急いで国民に知らせて参院で必ず廃案にさせましょう」と訴えました。
横浜市鶴見区から傍聴に駆け付けた金山和子さん(56)は「仕事も子育ても一番大変な家庭なのにひどい。反対署名を急いで集めていますが、もっと知らせて参院で廃案にさせたい」と話していました。
衆院で民主党は、「民主党の意向が多数盛り込まれる形となった」(同党ホームページ)という理由で、自民、公明、保守の与党三党とともに賛成にまわりました。
ところが、十三日の参院本会議質疑で同党の谷博之議員は、支給開始五年後の削減について、「議論は不十分であり、あまりにも問題点も多いことから、ただちに撤回し、法案から削除するべき」だとのべました。
「(母子家庭を)いきなり崖(がけ)から突き落とすようなものであってはいけないと強く危ぐする」「手当の削減よりも先に、まずは実効性のある就労支援と育児支援をおこなうべき」だとのべました。