2002年11月5日(火)「しんぶん赤旗」
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東京大学の小森陽一教授
作家・エッセイストの下重暁子氏
日本共産党の筆坂秀世政策委員長
電話で出演・「しんぶん赤旗」の浜谷浩司ワシントン支局長、田中靖宏ヨーロッパ総局長
司会・「しんぶん赤旗」日曜版の近藤正男編集長
米国によるイラク攻撃、日朝首脳会談…。赤旗まつり三日目の四日、中央舞台の徹底討論「アジアと世界の平和、日本はどう対応するのか」では、激動する国際情勢のもとで、世界とアジアの平和をつくるために日本がすすむべき針路について、縦横に討論しました。
冒頭、「しんぶん赤旗」の浜谷浩司ワシントン支局長がイラク問題をめぐる米国の動きを国際電話で報告。ブッシュ米政権が国連の決定がなくてもイラクへの先制攻撃に乗り出すことを繰り返し公言する一方、今週にも国連安保理決議の採決を狙うなど、緊迫した情勢を紹介しました。
東京大学教授の小森陽一さんは、ブッシュ政権は「戦争中毒」にかかっているとして、「いま見抜くべきなのは、ブッシュ政権のごく一部の人々の私的利害のため、(イラクに対し)戦争を仕掛けようとしていることだ」と強調し、同政権と米軍需産業や石油産業との結びつきを紹介。同時に、「ブッシュ政権は、(この間の)経済失政をイラク攻撃で乗り切ろうとしている」と指摘しました。
日本共産党政策委員長の筆坂秀世さんは、あるジャーナリストが、国連決議なしで米国がイラク攻撃に踏み切った場合、「世界史が変わる」と警告していたことを紹介。実際に米国の攻撃が始まれば「とりかえしのつかない結果になってしまう」として、(1)国連の機能が破壊され、強い者が横暴勝手に行動しても構わないノンルールの世界になってしまう(2)イラクに査察受け入れを迫っている世界の団結が壊される(3)アフガン報復戦争でいまだにテロ問題が解決していないように、戦争は泥沼の道でしかない――の三点を指摘しました。
続いて、欧州、中東でのイラク攻撃反対世論の高まりを、「しんぶん赤旗」の田中靖宏ヨーロッパ総局長が国際電話で詳しく報告。筆坂さんは「イラク攻撃をやめさせる可能性はある。道理のない戦争に、道理と正義は勝つ。引き続き攻撃反対の声をあげ続けたい」と表明しました。
小泉外交をどう見るかに話題が進み、小森さんは、インド洋で海上自衛隊艦隊が米軍に給油活動を続けている問題を指摘し、「小泉政権はアメリカサービス内閣だ」と批判。「日本が世界に信頼されてきたのは、一九四五年八月十五日から、国家の名前で軍事力によって人を殺すことを正当化してこなかったから。その伝統をもう一度選び直すことが、イラク攻撃に歯止めをかける力になる」と述べました。
作家の下重暁子さんは、イラク、北朝鮮をめぐる動きにかかわり、日本は「(相手を)追い詰める外交でなく、国際社会に引き戻す役割を果たすべきだ」と述べました。
筆坂さんは「憲法九条を生かすことで、世界から信頼される外交ができる」と強調。かつての侵略戦争で枢軸国だったドイツで、シュレーダー首相がイラク攻撃に反対の姿勢を明確にしている一方、小泉首相がまだ反対を明言していないことを指摘。「九条を生かし、主権国家としての誇りをもつことが、まともな外交に立て直す道だ」と訴えました。
討論は、アジアの平和をめぐる動き、とりわけ北朝鮮をめぐる動きの問題に進みました。
北朝鮮問題をめぐる国内のマスコミ報道について、下重さんは「情報のたれ流しで、なぜ拉致されたのか、本質は明らかにされていない」と述べました。
小森さんは、マスコミ報道の背景に、北朝鮮を恐怖の的にすることが、日本の軍国主義の復活、ナショナリズムをかきたてる重要な装置になってきたことがあると指摘。しかし、国民世論はそれにのせられておらず、この世論に依拠して、戦争責任の問い直しを含め、アジアの国々との信頼関係を回復し、本当の意味での日本の安全を確保していく道を進むことが必要だと述べました。
筆坂氏は、北東アジアの平和と安定を望まない勢力があることを見ておく必要があると指摘。北朝鮮は国際的な無法を繰り返してきた国だが、そういう国だからこそ、日本は冷静に国際ルールに基づいて話し合いによって、拉致事件や核開発、過去の清算の問題など両国間の懸案を解決していく必要があると述べました。
最後に、アジアの平和に日本がいかに貢献していくのかについて、小森さんは「日本はいま世界を変えることができる国になれるのに、それをつぶしているのが小泉内閣と政権党だ。その意味でも私たち政治にかかわる有権者の責任は重い」と強調。
下重さんは「民衆レベルの交流が平和をつくっていくのではないか」と発言しました。
筆坂氏は、この間の日本共産党の野党外交の経験を紹介しつつ、この中で大事な原則にしてきたのは、確かな事実、証拠に基づいて自分たちの責任で物事を判断する実証主義であり、礼は失しないが誰に対しても率直に物を言うことだと指摘。日朝国交正常化交渉の再開決定を高く評価したのもその立場からのものであり、「日本の国益、平和のために、今後も野党外交に取り組んでいきたい」と表明しました。
最後に司会の近藤日曜版編集長が「このプログラムが戦争ノー、平和を熱望する日本の良識を大いに発信する場になった」と結び、討論を終えました。