2002年10月27日(日)「しんぶん赤旗」
テレビが登場して、来年で五十年。あと一年後、二〇〇三年十二月に地上波デジタル放送が始まろうとしています。地上波デジタル放送って何? 視聴者へはどんな影響があるのでしょうか。
デジタル放送というのは、「0」「1」の信号の組み合わせで番組情報を送る方式です。波型の電波で送る方式(アナログ)より、大量・高速で情報を送ることができ、テレビ放送を大きく変える可能性があります |
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いま、多くの視聴者が見ているテレビは地上のアンテナから電波を受けるアナログ放送です。おもにはNHKと民放五局があります。
この地上波テレビとは別に昨年末、NHKと民放あわせて六局で衛星(BS)デジタル放送が始まりました。スカイパーフェクTVなど通信衛星(CS)では、九六年の放送開始からデジタル化されていました。
アナログ放送として残っている地上波テレビを来年、三大都市圏でデジタル化を開始し、二〇一一年までに全国にいきわたらせて、同時にアナログ放送を全廃する計画が進められています。(別表参照)
デジタル放送になるとどうなるのでしょうか。高画質、高音質とともに、チャンネル数をふやすこともでき、さまざまなサービスが可能となります。データ放送では、たとえば紀行番組で紹介された地についての交通の便、宿泊、観光案内等の情報を得ることができます。携帯電話でも番組を見られインターネットと同じようにテレビショッピングも可能。障害者向けに点字受信の開発も始まっています。
「見るテレビから使うテレビへ」。テレビ局や家電メーカーは地上波デジタル放送をこう宣伝しています。しかし、この放送を受信するためには新たに機器をそろえなければならず、これが大問題です |
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地上波デジタル放送は、現在のテレビ―アナログテレビやBSデジタルテレビでは見ることができず、それ専用のテレビを買わなければなりません。このテレビは最低でも二十万から三十万円、チューナーで十数万円といわれています。視聴者にはたいへんな負担がかかることになります。
昨年末に始まったBSデジタルの普及が停滞しているのも、受信機が高価格なためと番組の魅力がないのが原因とみられています。
また、放送設備・機器のデジタル化に莫大(ばくだい)な投資が必要です。NHKと民放あわせて一兆円ともいわれています。民放一社あたり、平均で約四十億円。地方局の年間収入にも当たる額です。この費用を生み出すために、テレビ局ではいま、番組制作費の切り下げや人員削減が進められ、現在の番組の質の低下を招くことにつながっています。
デジタル化にあたっては、アナログ波の割り当てを調整する作業(アナアナ変換=別項参照)が必要です。総務省は初め、このために七百億円必要としていましたが、これが大きな見込み違いで、今年になって千八百億円もかかることがわかりました。
しかも、作業が難航して、二〇〇三年末に地上波デジタル放送がスタートできるのは東京の場合、NHKが東京タワーの十キロ圏内、民放はわずかに一キロ圏内となりました。
一年後には地上波デジタル化計画を本格的に実施に移そうとしているのに、かんじんの視聴者にはこのことがほとんど知らされていません。テレビの新しい可能性の利点を、国民全体が無理なく受けられるよう、計画の根本的な見直しが必要です |
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ビデオリサーチが一月に発表した調査によると、八割を超える視聴者が「地上波デジタル化を知らない」と答えています。(左の別項参照)
しかし、政府はデジタル化にあたって、“アナログ放送二〇一一年に打ち切り”をスケジュールどおりに進めようとしています。テレビの買い替えサイクルは十・七年といわれています。アナログ放送打ち切りの時点でも、まだ三千万〜五千万台のテレビが使える状態です。
九七年に設置された郵政省「地上デジタル放送懇談会」は、アナログ放送打ち切りについて議論。メンバーだった主婦連合会副会長・清水鳩子さんは「二〇一一年に打ち切りという話にはならなかった。デジタルテレビの普及率が85%になった時点でもう一度検討しようということだった」と言います。
民放労連も「デジタル化をあまりに急ぎすぎる。一方的にアナログ放送打ち切りでは、テレビは“ただの箱”になってしまう」(羽原幹男書記長)と訴えています。
国民的な合意が調っていないのに、地上波デジタル化を強引に推し進めようとしている背景には、家電・通信メーカーなどの思惑があります。テレビの買い替えなどで十三兆円といわれる経済効果をあてこんでいるのです。
アナログ放送の一方的な打ち切りは、昨年の国会で電波法改定として突然、持ち出されたものです。日本共産党だけが反対しました。日本共産党は、すべての地域がデジタルでカバーできなかったり、デジタルテレビの普及が十分でないときはアナログ放送の打ち切りを見直す修正案を提出しました。
電波は国民共有の財産です。最新のデジタル技術を、国民が無理な費用の負担なく利用できるようにすることが欠かせません。
国民の間に地上波デジタル計画について広く知らせ、合意をつくっていくことが必要です。それを踏まえて、計画を作り直すことが求められます。
地上波デジタル放送を始めるためには電波の整理をして、デジタル波のための電波帯域を確保することが必要です。電波帯域が過密状態のため、アナログ波の一部を別の周波数に変え、この空いた帯域をデジタル波に当てる計画です。アナログ波の周波数を変える作業のことを「アナアナ変換」(アナログ周波数変更)といいます。中・四国の瀬戸内、九州の有明地域は地形が入りくんでいて、この作業がたいへんで多くの費用もかかり、この地域での2006年から地上波デジタル放送がスタートできるかどうかは未知数です。
「デジタル時代のテレビ」といううたい文句で、100万円近いプラズマテレビをはじめ、BSデジタルテレビ、ワイドテレビ、液晶テレビといろいろにぎやかですが、地上波デジタルテレビはまだ商品化されていません。現在のテレビはいずれも地上波デジタル放送には対応せず、チューナーを買う必要があります。
BSデジタル放送を見るにも、BSデジタルテレビ以外はBS用のチューナーがいります。BSデジタルテレビは安くても16万円前後。名前が似ているBSデジタル対応テレビも、プラズマテレビもチューナーをセットします。比較的求めやすい値段の横長ワイドテレビはチューナーを付けてBSデジタル局の番組は見られますが、画質や音質は従来どおりです。
2003年に地上波デジタル放送が始まるといっても、限られた地域だけのこと。いま急いで高価なテレビを求める必要はあるかというところです。