2002年10月25日(金)「しんぶん赤旗」
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“女性が昇格できないのは、能力の差。試験に合格しないからだ”―。こんな企業の言い分をしりぞけ、女性に課長職への昇格を認める和解が二十四日、最高裁でありました。提訴から十五年余。男女平等への新たなページを刻んだのは、芝信用金庫で働く十三人の女性たちです。彼女たちのたたかいは、いまも職場の差別に傷つき、憤り、苦しんでいる多くの女性たちに、きっと勇気と希望をあたえることでしょう。(畠山かほる記者)
午後二時四十分。和解をおえて、最高裁判所の正門に姿をあらわした原告の女性十三人は、これまでのいつよりも晴れやかで輝いてみえました。
「うれしい。十五年もの長い間の裁判で、大変と思うことがたくさんあったけれど、この和解でみんなにお返しができます。判決を喜び是正を期待していた職場の女性が過労死で亡くなりました。彼女がいたらどんなに喜んでくれたか…」。原告の一人、松尾由美子さん(55)は、長い年月をかみしめて語りました。満面の笑みに、時折ひとみを潤ませて…。
彼女たちの提訴は、一九八七年六月十八日。三年間悩んだ末でした。
当時、原告の多くは乳飲み子や小学生のお母さんで、子育ての真っ最中。「たいへん」な裁判を始める自信がもてなかったのです。「やっぱり悔しいわね」「私たちがやらなくてだれがやるの」…。やがて、「交代しながら、まずできる人が先頭にたってやりましょう」と、一致しました。
それは、誇りをもって働きたくても、働けない金庫の女性差別があったから。提訴後、原告の播磨三枝子さん(62)は語っています。「勤続三十二年(当時)ですが、いまも出納係。入職して一、二年の男性の仕事です」
男性は、営業、融資と一通りの仕事を経験し年功序列的に昇進・昇格していくのに、女性は単純・定型的な事務ばかりでヒラのまま。昇格とリンクする賃金は、同年齢の男性と百五十万〜四百万円も年収差がありました。
昇格するには「昇格試験」に合格することが必要です。試験の配点は人事考課が50%を占めるため、学科・論文試験がよくても管理者のさじ加減できまる人事考課が悪ければ合格できないしくみとなっています。
裁判が始まって、一番大変だったのが男女差別を立証するための膨大な資料づくりでした。仕事帰りに休日に、古い資料をひっくり返して十三人一人ひとりの同期同年齢の男性の昇進・昇格時期を二十数年にさかのぼって調べ上げる…。こうした苦労が、金庫の女性差別を正当化する主張「女性が昇格しないのは昇格試験に合格しないから」を崩す、重要な証拠となっていきます。
一審の東京地裁判決(林豊裁判長、九六年十一月二十七日)は、昇格試験があっても「男性職員に対する労使慣行」(年功序列による昇格)を女性には適用していないとして、課長職への昇格と過去の差額賃金の支払いを命じました。これまで男女間の判決では、過去の差別に対する差額賃金を認めても、将来の差別是正となる昇格を認定したものはなく、前例のない画期的判決です。しかし、昇格の根拠がおもに芝信金の「労使慣行」にあるため、他の訴訟への適用は限定されます。
この点を大きく前進させたのが、四年後にだされた二審の東京高裁判決(瀬戸正義裁判長、二〇〇〇年十二月二十二日)でした。判決は「使用者は労働契約において人格を有する男女を能力に応じて処遇面において平等に扱う義務」があると明言。これを基本に、労働基準法の均等待遇(三条)、男女同一賃金(四条)などを引用して、抜本的是正をはかるために昇格した地位を認め、過去および将来の差額賃金の支払いを命じました。これは高裁判決の特筆すべき点で、芝信金に限らず全国の女性労働者に救済の道をひらくものです。一審では認めなかった慰謝料として原告一人七十万〜二百万円と、弁護士費用の支払いを金庫側に命じています。
この判決を不服として上告した金庫側でしたが、今回の和解内容は高裁判決をほぼそのまま認めています。画期的な高裁判決は「不動のものとなった」(弁護団声明)のです。
なお、高裁判決の唯一の欠陥として、勤続年数のもっとも短い原告には、昇格していない同期同給与男性が五人いるとの理由で、昇格を認めていません。今回の和解では再度、試験を受けることで、昇格への道が開かれることになりました。
組合分裂から三十四年。長年差別を受けてきた芝信用金庫従業員組合が参加した今回の一括和解は、同じ従組員である原告女性たちにとっても、明るい職場への大きな一歩となることでしょう。
国連は日本企業の根強い女性差別の是正を勧告してきました。今回の和解は、これら企業に対する是正措置を求めているといえます。男女平等への「二十一世紀のかけ橋」となることを願ってやみません。