日本共産党

2002年10月10日(木)「しんぶん赤旗」

ノーベル化学賞 エンジニア 田中耕一さん

たんぱく質の画期的な分析法 新薬開発などに応用


 スウェーデン王立科学アカデミーは九日、二〇〇二年のノーベル化学賞を島津製作所エンジニアの田中耕一さん(43)と、米ヴァージニア・コモンウェルズ大学のジョン・B・フェン研究教授(85)、スイス連邦工科大学のクルト・ビュートリッヒ教授(64)の計三人に授与すると発表しました。

 前日には、小柴昌俊・東京大学名誉教授のノーベル物理学賞受賞の発表があったばかり。同じ年に二人の日本人がノーベル賞を受賞するのは初めてです。ノーベル化学賞では、二〇〇〇年の白川英樹・筑波大学名誉教授、二〇〇一年の野依良治・名古屋大学教授に続いて三年連続で四人目になります。

 田中さんの授賞理由は、「生体高分子の質量分析法のための穏和な脱着イオン化法の開発」。質量分析法は、現在、ヒトや動植物のたんぱく質の成り立ちや構造、働きを調べるには無くてはならない方法となっており、田中さんたちの研究成果は、新薬の開発やがんの早期診断、食品検査の分野で生かされています。


受賞の背景

生命科学の発展に欠かせない技術

 田中耕一さんがノーベル化学賞を受賞した背景には、生命科学の進展があります。ヒトの全遺伝情報(ゲノム)の解明が進み、たんぱく質の解明が次の課題となってきています。田中さんたちが開発した手法は、たんぱく質の構造解析に欠かせないものとして、広く使われています。

 たんぱく質のような生体高分子の分析は、新薬の開発や、食品の検査、がんの早期診断に欠くことができません。しかし、たんぱく質はたくさんのアミノ酸から成り立っており、しかも複雑な構造をしています。

 このため、調べたい試料のなかに、どのようなたんぱく質が入っているのか、また、そのたんぱく質がどのような形をしているのかなどを明らかにするのは非常に困難でした。

 現在、そのために広く使われている質量分析は、調べたい分子の質量を測定して、その分子が何であるかを明らかにする方法です。しかし、以前は調べることができるのはかなり小さな分子だけで、たんぱく質のような“重い”生体高分子は調べることができませんでした。

 田中さんは一九八七年にソフトレーザー脱着法という、たんぱく質分子をイオン化するための方法を開発して発表しました。この方法は、レーザーを当てることにより、試料が小さな断片に“爆破”するもの。その結果、“重い”たんぱく質分子を自由に飛びまわらせて、その質量を容易に測定することができるようになります。

 田中さんは、この方法で、キモトリプシノーゲンやカルボキシペプチダーゼA、チトクロームcといった、生体にとって重要なたんぱく質を実際にイオン化できることを確認し、八七年から八八年にかけて学会や論文で発表しました。田中さんは二十代でした。

 スウェーデン王立科学アカデミーは、田中さんたちの授賞理由を説明するなかで、こうした研究の結果、「たんぱく質を詳細に分析できるようになり、生命のプロセスをよりよく理解できるようになった」とたたえています。

 たんぱく質の立体構造について研究している胡桃坂仁志(くるみざか・ひとし)さん(理化学研究所研究員)は、「ソフトレーザー脱着法は、たんぱく質をテーマにしている研究室では広範に使われている質量分析法です。たんぱく質の立体構造解析や、遺伝子同定など、ゲノム解読後の生物学の発展にはなくてはならない技術です」と話しています。

 


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