2002年10月10日(木)「しんぶん赤旗」
イタリアの政府中央統計局(ISTAT)はこのほど、昨年七月からの一年間でローマのあるラツィオ州で全国最多の六万七千人分の仕事が生まれたと発表しました。背景には中小企業支援や就業相談の充実があるといわれます。ローマ市で失業克服の取り組みと課題を見ました。(ローマで島田峰隆)
「一番の要因は、中小企業の設立や運営を財政的に支援する法律の活用が広がったことですね。市民からもよく問い合わせがありますよ」―ローマ市で労働問題や郊外地域発展計画を担当するゴンネッラ氏(36)はこう語ります。
同法は、主に大都市の郊外地域で中小企業を設立しようとする人、あるいはすでに経営している人に対し、国が財政支援する法律です。地元に根付いた中小企業を発展させ、地域発展と就業率の向上を結び付けることが目的です。前の中道左派政権時代にできた法律です。
中小企業の設立を望む人は市と相談して計画を組み、立ち上げ資金として最大で十万ユーロ(約一千二百万円)の支援を受けることができます。同市はこれに加えて民間銀行とも協定を結び、低金利の特別融資も受けられる措置を取りました。
実際、ラツィオ州での新たな就業の85・5%は四十九人以下の中小企業が占めました。マスコミも中小企業の育成が就業増につながったことに注目しています。
こうした制度の普及や就職、営業に関する相談活動を促進するため、市内二十三カ所に「就業・職業訓練相談センター」も設けられています。
センターは週末を除き、毎日開館します。就業の専門相談員、労働法や商法の専門家、地元の企業活動の専門調査員、求人情報調査員の計四人が常駐し、就業のアドバイスを行います。市の予算と欧州連合(EU)の欧州社会基金で運営し、利用は無料です。
郊外のコルビアーレ地域にあるセンターを訪れると、壁にはその週の新聞や雑誌に載った求人情報がすべて一覧表にして張り出されています。この日はちょうど移民労働者の相談を受け付けていました。
専門相談員を務めるククレリさんは、「就業のきっかけとなる情報を提供するほか、関係書類の準備など実務手続きの援助もします。中小企業への支援もここで詳しく説明しますし、仕事が軌道に乗るまでは何度でも来てもらっていますよ」と話します。
しかし就業が増えたとはいえ、ラツィオ州の失業率は依然として約10%。就職難の状況は変わりません。また同州のイタリア労働総同盟(CGIL)のビアンキ書記長はマスコミで、「増えた労働の大部分は不安定雇用」と指摘したように、必ずしも市民の要求に沿った仕事が増えているわけではありません。
ゴンネッラ氏も「予算確保など課題も多い」といいます。しかし「市民の要求をよくつかみ、就業を支援することは市民に近い市だからできる仕事」とも強調し、今後も失業対策を探求する意欲を語っていました。