日本共産党

2002年9月18日(水)「しんぶん赤旗」

イラク 査察無条件受け入れ

アナン国連総長が発表


 【ワシントン16日遠藤誠二】国連のアナン事務総長は十六日午後、イラク政府が大量破壊兵器の査察再開を無条件で受け入れることを伝えたと発表しました。査察が再開されれば、一九九八年十二月に英米両軍による大規模爆撃で中断して以来のこととなります。

 アナン事務総長は「イラク政府から、無条件で査察を再開するとの書簡を受け取った」と言明。イラク政府の書簡は同外相とアラブ連盟のムーサ事務局長(エジプト)がアナン事務総長に面会した際、渡されました。アナン事務総長は、今回のイラク政府の決断にはアラブ連盟が重要な役割を演じたと強調しました。

 ブッシュ米政権がイラクへの軍事攻撃を主張するなか、十日に開会された国連総会では、イラクへ査察再開を要求する声とともに、米国による対イラク強硬政策に対しても反対意見が続出しました。国際的な批判を意識して米国は、国連安保理でのイラク決議採択を模索し、短期間での査察受け入れという「最後通告」を突きつける予定でした。国連安保理での協議が始まったなかでのイラクの査察受け入れに、米国を含めた各国の反応が注目されます。


米、あくまで「新決議」要求

 【ワシントン16日遠藤誠二】イラクが大量破壊兵器の査察再開を無条件に受け入れると国連に通告したことを受けて米ホワイトハウスは十六日夜、声明を発表し、「国連安保理の行動を避けようとする戦術にすぎず、失敗に終わるだろう」との見方を示しました。

 声明はさらに、「(イラクの)サダム・フセイン(大統領)と交渉している訳ではない」と主張。査察の問題ではなく、「(大量破壊兵器の)武装解除と、他のすべての安保理決議の履行」が問題だと指摘しています。

 その上で、「これまでイラクが無視してきた安保理決議を履行させるための新しい、効果的な決議を採択すべきだ」として、そのために努力すると表明。あくまでも、国連を通じた「最後通告」をイラクにつきつける考えを示しました。

 声明はホワイトハウスのマクレラン副報道官が読み上げました。


解説

注目される安保理の論議

 イラクのフセイン政権が国連による大量破壊兵器の無条件査察受け入れを表明したことで、イラクをめぐる緊迫した局面が変わる可能性が開けてきました。しかし、「悪の枢軸」とイラクを非難しフセイン政権打倒に固執する米ブッシュ政権が今後、難題を出してくる可能性もあります。

 大量破壊兵器の査察は、イラクのクウェート侵攻に端を発する一九九一年の湾岸戦争の終結にあたって安保理が決議したもの。イラクは国際的監視のもとでこれらの兵器を廃棄することが求められています。

 査察は九一年から九八年秋まで行われました。米の干渉と、イラクによる一部施設への査察拒否などで長引く中、九八年末にイラクの与党バース党本部への査察をイラクが拒否したのを口実に米英軍が国連決議もなく一方的に首都のミサイル基地などを大規模空爆して以来、査察は中断しています。

 その後、大量破壊兵器疑惑が解消されないことを理由に石油禁輸など国連の制裁が解除されないことにいら立つイラクは、(1)国連制裁の解除(2)米英の一方的イラク攻撃回避―を査察受け入れの条件にしてきました。

 今回、イラクが無条件査察を受け入れた背景には、ブッシュ政権がフセイン政権打倒を掲げて軍事力行使を主張するという覇権主義路線を進めるなか、アラブ諸国をはじめとする世界の諸国が米国が狙う対イラク戦争に反対を表明する一方で、イラクに査察を受け入れるよう求めたことがあります。イラクの国連への書簡は「国連事務総長やアラブ連盟事務局長、アラブ、イスラムなどの友好国の呼びかけに」回答したと述べています。

 しかし、無条件査察の行方はなお予断を許しません。

 イラクは書簡で、査察官の無条件イラク復帰のため、「査察の即時再開に必要な実務面の準備に関する協議を行う用意がある」と述べています。同時に、安保理決議に明記された「イラクの主権と領土保全、政治的中立」の尊重を求めています。

 九八年の一方的空爆にみられるように、米英両国が「主権と領土保全」の尊重というイラクの当然の主張を踏みにじる可能性は少なくありません。米国は今回のイラクの表明を「時間稼ぎ」と一蹴(いっしゅう)し、「サダム・フセインと交渉する余地はない」「われわれの目標に到達するための最も効果的な手段を決定するために安保理で協議する」(ホワイトハウス・スポークスマン)としています。

 米国は多国籍部隊を査察団に同行させる「強制査察」案も検討しているとみられます。その場合、「主権と領土保全」の尊重を主張するイラクと国際社会がどういう態度にでるか。

 安保理ではイラクの新たな表明で、新たな決議は必要ないとの意見が出始めています。その論議の行方が注目されます。(伴安弘記者)

 


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