2002年9月2日(月)「しんぶん赤旗」
「厳選採用」。こんな言葉が飛び交っています。学生や大学の就職課にとっては、就職のきびしさをあらわすものとして。企業にとっては「生き残り」のキーワードとして。大学生のことしの就職活動はどうなっているのでしょうか。(大野ひろみ記者)
九月は「秋採用」の時期。春から就職活動をしていてもまだ決まらない人、公務員試験に通らず民間企業に志望を変えた人、留学先から帰国した人などがおもに受けます。
大学の就職窓口などから共通して出てきた言葉が企業側の「厳選採用」でした。採用枠を決めるものの、ほしい人材がいなければ採用枠に満たないままいったん採用活動をうちきり、あらたに募集する、というのです。
「厳選採用」のもとで、企業は他社よりも早く「いい人材」を確保するために採用活動の早期化に走る、四月から六月の内々定ラッシュに乗れなかった学生の就職活動は長期化する――。
早稲田大学学生部就職課によると、内々定を初めて得た時期が年々早まっています。
まず男子の場合。二〇〇〇年は四月下旬にピークを迎えましたが、二〇〇一年は四月中旬がピークになりました。女子のピークは、五月上旬から四月下旬に。
日下幸夫課長は、「ことしの大きな特徴は、就職活動の早期化にさらに拍車がかかったということです。全体として昨年より十日から二週間前倒しになっているようです」と話します。
就職活動の長期化は女子に目立ちます。二〇〇一年の「六月以降」に内々定を初めて得た女子学生は31・5%。これに対して、男子は19・3%です。
こんな実情について、日下課長は疑問を投げかけます。
「早期化に長期化が加わり、ゼミが成り立たない。四年生の前期の授業が空洞化しているんです。教員からは『このままでいいのか』と声が出ています。最近では、たとえば高い営業成績をあげる社員の行動特性を分析して、それに合致する学生に内々定を出す、といった傾向があります。そこでは大学四年間の集大成として学生を見ているのではありません。卒論や卒業研究を仕上げて、はじめて大学生活をやり遂げたといえるはずなんですが、その前の段階で、学生の可能性が見極められるのでしょうか」
明治大学就職事務部就職課の堀川英昭課長は、「大学に求人の申し込みをしている会社数は横ばいです。そのなかで、一社あたりの採用人数が減っているのが特徴です」と指摘します。
明治大学でも、金融関係は、昨年に比べ内々定が一週間早まっています。早い人で三月末。加えて、ことしは「厳選採用」の影響か、筆記試験の段階で落とされることが多くなっている、といいます。
堀川課長は「早期化によって、在学中に自分の将来を考える時間的な余裕がなくなっています。授業はもとより、旅行、友人との語らいなど、『ムダ』といわれることをする時間が必要なんですけれど……」。
東京・六本木にある学生職業総合支援センター(厚生労働省が設置した学生と二十代の既卒者むけのハローワーク)の大澤茂室長の意見は――。
「ただ単に『就職難』だとは考えていません。たしかに、企業の受け皿はこれだけ、と決まっているのですから思うように就職できないでしょう。競争ですから、望む仕事に就職するにはどれだけ早く準備を始めるかが大事です。でも、職がないわけじゃない。自己分析し、正しく情報を集め、自分の手の届くところで仕事を選べば就職は可能です。自分に視野をひろく持ち、初めから一つの業界にこだわらないことです」
東京都内の大学に通う吉村恭子さん(22)=四年生・仮名=はマスコミ志望。これまでに二十社以上を受けました。ようやく八月に一社(出版社)から内々定を得ました。「就職活動や就職って、どんな仕事をしたいかを考える大切な時期なのに、受験戦争みたいにレールに乗っからなきゃいけないんです。友だちとも競争関係で、すごく孤独です」
吉村さんが就職活動をはじめたのは、三年生だったことしの一月。インターネットで求人を探して資料請求。エントリーシートや履歴書を提出しました。エントリーシートを書くのに、三時間以上かかるのは普通。一晩かかることもありました。
エントリーシートとは、企業独自の履歴書のようなもので、就職雑誌には質問例として自己PR、長所・短所、自分の強み・弱み、自分のキャッチフレーズ、志望理由、会社でやってみたいことなどが列挙されています。これをインターネットで送信するケースがふえています。
苦労して提出しても、半分が「エントリー落ち」でした。企業からは、返事もありません。連絡がくるのは、次の選考課程にすすむ場合だけです。
同じ大学の男子学生には「毎日届いてじゃま」なほどの企業からダイレクトメールが届きましたが、吉村さんには一通もきませんでした。
エントリーをしながら、採用試験に備えて作文や時事問題、一般常識問題の勉強。春先からは会社説明会が始まりました。四年生になってからは、講義にはほとんど出られなくなり、前期、何とか出席し通せたのはゼミだけでした。
初めは新聞社にしぼっていたものの、次つぎと不採用に。業種にこだわらず、出版社、化粧品開発の会社、一般事務など興味のあるところを受けましたが、内々定は得られませんでした。
「考えを人に伝える能力やIQ、基礎学力が人より劣っているから次のステップに進めないのか、と考えてしまいます。人間性が否定され、社会から『いらない』といわれたような気がしました」
一社から内々定は得たものの、労働条件などに不安が残るため、秋の採用に向け就職活動を続けます。「最近では、たまたまその会社から門を閉ざされたんだ、会社が自分に合っていなかったんだ、とたまには考えるようになりました。本当は、こんな時代だから、『がんばろうよ』という気持ちを発信する人になりたいんです」
就職難に泣き寝入りしない大阪女子学生の会が、合同企業説明会に参加した学生を対象におこなったアンケート(8月22日)には、就職活動の早期化・長期化のもとで、切実な声があがっています。
アンケートに答えた23人のうち、資料請求の開始時期でいちばん早かったのは3年生の5月。3年生の10月、12月と続き、翌年2月と答えた人が5人いました。
会社説明会やセミナーには20社、面接には10社以上参加している人が多く、最終面接に到達していない人もいます。
就職活動について実感を聞いてみると、こんな意見が――。「授業を何回も休まないといけない」「企業側の都合だけでセミナーや面接の日が決められる」「卒論と重なり大変な時期。在学中から卒業後のことに専念しすぎて学生生活がおろそかにならないか心配」。
交通費やスーツなどの洋服代がかかるという声も多く、10万円以上かかったと答えた人が7人いました。なかには30万円つかった、という人も。「交通費を半分でいいから(企業が)出してほしい」「とにかくお金がかかる」。
就職難に泣き寝入りしない女子学生の会は、こうしたアンケートや企画を通じて就職難の実態をあきらかにし、就職難を解決しようと全国で活動しています。就職活動で独りぼっちになりがちな学生たちが就職について考え合う学習会も。男女、学年に関係なく入会できます。
連絡先 就職難に泣き寝入りしない女子学生の会
電話042(572)5848
就職問題懇談会(国公私立の大学、短大、高等専門学校の九団体で構成)が全国の大学など千百六校の就職指導担当部門を対象におこなったアンケート(ことし六月下旬現在)では、こんな結果が。
リクルートワークス研究所の調査によれば、民間企業のことしの大卒求人倍率(民間企業への就職を希望する学生1人に対する企業の求人状況)は1.30倍。昨年は1.33倍でした。就職希望者は約43万1000人で昨年とほぼ同数なのに、求人総数は約56万人で1万3000人減っています。
前回(八月十九日付)紹介した「熱狂しに来た! フジ・ロック・フェス9万人」にたくさんの反響をいただきました。
「一人一人の生の声がとても身近に感じます。記者の取材相手に対する視線があたたかい。記者も私たちと同じ生活をおくりながら書いているんだなと思いました」とメールを寄せてくれたのは、東京・荒川区の女性。
「高三の二男がフジ・ロックにいきました。環境NGO活躍の部分は、私も知らなかった部分で、さすがと思いました」というメールは「48歳の母親」さんから。長崎市の女性からは「去年、娘が休暇とお金をやりくりして、熱狂しにいった。娘と記事を真ん中に話がはずんだ。いっしょにいった友だちにも見せたい、と切り抜いてもっていった」というはがきが届きました。
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