2002年8月27日(火)「しんぶん赤旗」
日本共産党リストラ反対・雇用を守る闘争本部は五、六月に地域のリストラ調査を実施しました。本シリーズはそのリポートです。
精密機械工業が集積し“東洋のスイス”と呼ばれた長野県の諏訪湖周辺地域に産業空洞化の大波が押し寄せています。
「労働組合のつくり方を教えてほしい」。諏訪労連(全労連加盟)の事務所に塗装業を営む会社社長のAさんがかけ込んできました。従業員は約二十人といいます。
思いつめた表情で「単価の切り下げがひどく、一方的に仕事を引き揚げられる。労働組合を通じて、元請けに働きかけてほしいと思って…」と語り始めました。
「下請け二法を活用すればいいのでは」という杉山武事務局長に、「それができるぐらいなら、相談はしない。元請けに文句をいったら、それっきり仕事はこなくなる。わしらはたたかえないんだ」と声を荒らげました。
「元請けの横暴をなんとかしたい。労働組合をつくって、ものをいいたい」。五月の連休をはさんでメッキ加工の社長、熱処理会社の社長と同様の相談が相次ぎました。
このうちの一件は、勤務していた女性従業員から解雇問題で相談が寄せられていました。諏訪労連が会社と交渉するなかで、「私の相談も聞いてくれませんか」と社長が話してきたのでした。
「単価は四割引きのうえ、オール手形で決済。二〜三年前に比べて売り上げは三分の一に落ち込み、従業員の給料を払うだけでもう精いっぱいで、自分の給料は数カ月でていない。妻がパートに出てうちの家計を支えている状況が続いている…」
諏訪地方は、セイコー(時計)やオリンパス(カメラ)、三協精機(オルゴール)を中心に下請け中小企業とピラミッド型の産業構造を形成してきました。
一九八五年からは、電気電子機器への技術転換が行われ、松下電器や富士通、NECなど電機大企業の下請け化が促進。そこに、生産部門の海外シフトによる産業空洞化が押し寄せ、中小企業の仕事が激減しています。
諏訪市だけで九〇年代以降、大手中堅の十六社が海外に進出しました。現在、市や商工会議所が中国などに中小企業の仕事探しに出掛けるという事態が生まれています。
同市は、空洞化の影響や経営実態を把握するため、市内にある機械・金属関連のすべての企業の訪問調査を実施しています。昨年度は従業員二十人以下の小規模事業所全社を巡回しました。
市経済部の上級職員は「仕事の減少率は四割にもなり、経営はもとより雇用についても大きな問題が生じている。仕事がほしいというのが最大の要求です」といいます。
地域企業の研究開発部門の支援をしてきた長野県の精密工業試験場は、昨年一年間で四千五百件の相談、一万四千件の依頼試験、百二十件の現地指導を行ってきました。
試験場長は「大量生産品は海外に出てしまい、もう戻っては来ない。常に新しい開発が必要」とのべ、(1)量産までの試作品のものづくり(2)生産が消費地にないといけない技術―をあげました。
こうしたなかで、労働者や中小業者、消費者がネットワークを組み、仕事と雇用を増やすために力を合わせようという動きが始まっています。
諏訪労連が二月によびかけた地域経済を守るシンポジウムでは、二つの連合労組から役員が参加するなど二百五十人が熱心に討論しました。
同労連の杉山事務局長は話します。「県が脱ダム宣言をし、森林保護や貯水池、河川改修、病院・福祉施設の耐震補強などダムに代わるさまざまな公共事業が浮上しています。仕事を県外のゼネコンに持っていかれるのではなく、『こういう仕事だったらできる』と意欲を燃やす県内、市内の中小企業に仕事が回るよう運動を広げたい」