日本共産党

2002年8月27日(火)「しんぶん赤旗」

村の郵便局、消えた

民営化進めるオーストリア

「生活に必要、なぜ奪う」怒り噴出


 郵便事業の民営化を推し進める自由党・国民党連立政府の下、オーストリアの地方郵便局は「採算性」を理由に次々閉鎖され、地域社会に打撃を与えています。住民からは“生活に欠かせない場をどうして奪うのか”といった怒りの声が噴出。関係地方自治体も猛反発しています。(ヘルマゴル〈オーストリア・ケルンテン州〉で岡崎衆史)

過疎化をすすめる

 オーストリア南部、ケルンテン州の州都クラーゲンフルトから列車で西に約二時間、南アルプスのふもとにスキーや登山などで年間九十万人が宿泊するヘルマゴル町があります。同町を中心とするヘルマゴル管区の人口は約二万人。この地域の十七郵便局のうち、七月末までに七カ所が閉鎖され、二カ所が二〇〇三年末までに閉まる予定です。

 同管区で村のただ一つの郵便局が七月一日に閉鎖されたゲルトシャハ村(人口約六百四十人)を訪ねました。駅に隣接された郵便局跡には、「移転」の張り紙があり、周囲は閑散としています。近くで腰掛けに座り縫い物をしていた主婦のエルフリード・ノバクさん(60)は、「四十年続いた駅前郵便局がなくなり、とりわけ年寄りは大変」とつぶやきました。

 町まで、車や列車で十分ほどですが、車がない人々は、長くて三時間待たなくてはならない列車を使うのは一苦労です。

 こうした状況について、ビンツェンツ・ラウシャー・ヘルマゴル町長は、「地元の人々の生活の中心だった郵便局の閉鎖で、世間話をするコミュニケーションの場が消え、郵便局を中心に展開していた食堂、中小企業なども撤退している」と指摘。「一度失われた社会基盤を復活させるのは難しく、地方の過疎化を促進している」と怒ります。

全国では27%閉鎖

 政府は一九七〇年、国営企業の民営化を進めるため、政府が100%出資する産業管理会社を設立し、八五年、オーストリア産業持ち株会社(〓IAG)に改組しました。一九九六年、それまで政府の直接管理下だった郵政事業を、〓IAGが100%の株式を所有する形で、同社の傘下に組み入れ、郵政民営化の第一歩を踏み出しました。その後、一九九八年から二〇〇〇年にかけて、郵便事業を、(1)電信事業(2)郵便・金融取り扱い(3)地方バスの三部門に分割しました。

 この間、〓IAGは、電信事業を担うテレコム・オーストリア株の52・8%をテレコム・イタリアや民間に売却、さらに、今年八月には、地方バス部門の一部株式の民間所有を進める計画が地元紙に暴露されていました。

 郵便局閉鎖の動きは、一連の民営化の動きの中、郵便、金銭振込み事業を扱うオーストリア・ポストが「採算が取れない」ことを理由に進めたものでした。国内全体で六百二十八カ所の郵便局が七月末までに閉鎖され、現在郵便局総数は、千六百九十八まで減りました。

 国営企業の本格的民営化を狙う右派政権(二〇〇〇年誕生)は、これを支持しており、ライヒホールド社会基盤相は、ポストの株式が政府の所有ではなく、100%〓IAGの所有にあることから、政府が介入する余地はないと述べ、閉鎖に反対する住民の声を無視してきました。

自治体など反対広く

 一方、郵便局閉鎖に反対し、これを撤回させるためのたたかいも広がっています。すでに多くの関係地方自治体の首長や地域住民、労組、野党などが反対を表明しているほか、国内二千三百四十六市町村が加盟する「オーストリア市町村連合」も、地域への影響を最小限にするよう求め、閉鎖には慎重な姿勢を示しています。同連合のメードルハマー議長が、「政治の参加を失わせる軽率な分割民営化に警告する」と述べるなど、民営化自体に反対する動きも強まっています。

 ラウシャー・ヘルマゴル町長はいいます。「郵便局のような人々の暮らしに欠かせない事柄は営利事業とは区別し、国が責任をもって守るべきです。怠れば、田舎の生活は破壊され、美しい地方の景観も維持できなくなる。田舎が荒れ野となれば、都会の人々の憩いの場も失われます」

 


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