2002年8月25日(日)「しんぶん赤旗」
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三重県鈴鹿市の東名阪自動車道で大型トレーラーが帰省ラッシュで渋滞する車列に追突、七台が玉突き衝突し、五人が死亡した事故(十日)は、トレーラーの運転手の「居眠り運転」が原因でした。長引く不況の下で長距離トラックの事故が増えています。その多くは長時間勤務による疲労が原因で、集中力の欠如・寝不足が事故を招いています。全国で五万五千社・約百十万台ある営業用トラックの事故の背景を追いました。(米田 憲司記者)
東名阪多重事故の運転手は、茨城・日立市から約七百キロメートル離れた大阪市の物流センターまで、一日一回三日連続で往復する勤務についている途中で事故を起こしました。当人は「当日は急いでいてトイレ休憩もとらなかった」と捜査当局に話しているといいます。捜査を受けた日立市の業者は「通常の勤務態勢で休憩や仮眠を取る時間はあるはずだ」としています。
警察庁の調べによると、営業用トラックの年間交通事故件数は、一九八九年は二万二千七百五十件でしたが、二〇〇一年は三万三千二百九十一件に増えています。全体として増加傾向です。
運転手の労働時間(運転時間、拘束時間)については六七年以来、「改善基準告示」が出されています。現在は九九年の厚生労働省の「改善基準告示」(運転時間は一日九時間、一週四十四時間、拘束時間は一日十三時間、一月二百九十三時間、年間三千五百十六時間)になっており、今年四月には国土交通省も同様の告示を出しています。
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しかし、運送業界では、荷主や元請けが無理な到着時間指定をして急がせ、運送会社も無理を承知で仕事を引き受けないと、次の仕事が回ってこないという関係が続いています。そのしわ寄せを運転手が受け、「告示」さえも守れず、事故に結びついています。
国の「告示」は、違反率が50%を超えています。しかも、厚生労働省は二月から時間外労働を月間四十五時間以内に求めており、それを越えた「告示」自体が、大きな矛盾をもっています。
こうした実態について、全日本トラック協会の矢島昭男常務理事は以下のように業界事情を説明します。
(1)社会の経済発展と顧客のニーズに応じて宅配便なら翌日配達が当たり前になるなど、時間指定が早くなっている(2)仕事量が増えているのに、労働力が少なくなっている(3)石油等の化学製品や牛乳などのタンク車等は、荷主が運送会社の親会社のようになっている(4)他産業の製品を輸送するため、その産業の景気に左右されやすい(5)適正運賃が確立していない―。
業界は大部分が中小零細業者です。宅急便を運んでいる大手は、長距離輸送は下請けにまかせて、地域だけを受け持っています。東京〜大阪間だと夜の九時まで荷物を受け付け、翌日の午前六時までに配送センターに必着としています。元請けの大手が事実上の荷主になって時間指定到着を厳守させています。
全日本建設交運一般労働組合の赤羽数幸書記次長は「交通事故の増加は、トラック業界の経営と労働条件の悪化を背景としていますが、決定的な要因は九〇年に施行された物流二法による規制緩和です」と指摘します。
「規制緩和による参入の自由化で十年間に業者数は四万社から五万五千社に激増し、運賃は二十年前の認可運賃にも届きません。この物流二法が先の国会でいっそう自由化の方向で『改正』されたことは、安全輸送をさらに脅かすことにつながっています」と語っています。