2002年8月24日(土)「しんぶん赤旗」
「度重なるリストラで就職先もなく将来を悲観して自殺」「会社経営難で自殺」――失業や事業不振、借金と生活苦などを動機として毎日、日本のどこかで二十人近くが自殺していることになります。
昨年の全国の自殺者は三万千四十二人で四年連続三万人を超える深刻さです。中でも四十代、五十代の働き盛りが四割を占めます。
自殺にはさまざまな動機があるにしても、重視しなければならないのは、経済・生活問題が動機とみられる自殺の増加です。過去最悪の六千八百四十五人にのぼります。
親が自殺した遺児は全国で十二万人にのぼるとみられ、家族にも精神的、経済的に耐えがたい苦痛をもたらしています。さまざまな形で社会を支えていた人々の死は、社会全体にとっても大きな損失です。
いまや日本は世界でも自殺の多い国です。十万人当たりの自殺率は、主要十八カ国の中で四番目です。アメリカ、ドイツの二倍、イギリス、イタリアの三倍に達します。
世界第二位の経済大国でなぜ経済的理由による自殺が急増するのか。その背景に、失業と倒産の激増があります。とくに失業率と自殺の増加は相関関係にあるといわれます。
実際に、自殺が三万人台に急増したのは、橋本内閣が九兆円の負担増で経済をどん底に陥れ完全失業率が4%台に上がった九八年からです。
とくに市場万能の「競争社会」をつくる小泉「構造改革」が、大失業と大倒産を招き、新たな犠牲者を生み出していることは明らかです。
働く人たちの自殺でいま一つ重視する必要があるのは、若い世代を含む過労自殺の増加です。
長時間労働や仕事のストレスによる精神障害などが原因の自殺は、労働災害と認定された件数だけで〇一年は三十一件で前年より十六件も急増しています。これは氷山の一角にすぎません。
職場の健康調査で「死にたいと思うことがよくある」と答えた“自殺予備軍”は5・5%にのぼります(社会経済生産性本部メンタル・ヘルス研究所調査)。社員千人の企業なら五十五人が“自殺予備軍”です。
過労自殺が増加している背景にリストラ・人減らしで仕事が過重になり、深夜までの残業や休日出勤が続く実態があります。
それに加えて「成果主義」で競争をあおられ、賃金や雇用は不安定になり、ストレスと不安は増大するばかりです。これらが「心の健康」を破壊し、最悪の場合には自殺に追いやっているのです。
企業利潤さえあがれば社員の命と健康を顧みないという利益至上主義は許されません。
最高裁判決は、企業が過労やストレスの蓄積で社員の心身の健康を損なわないよう注意する義務がある、と企業の健康管理責任を明確にしているのです(電通過労自殺事件)。
いま親を失った自死遺児は、自殺防止対策のため自殺統計の早期発表と実態調査の実施、自殺防止のセーフティーネット確立を求めます。
厚生労働省の有識者懇談会も自殺予防の提言をまとめようとしていますが、政府が交通事故死の三倍にのぼり社会問題にもなっている現状を直視し、自殺防止の実効ある対策をとることは急務です。
同時に、無法なリストラと過重労働の規制、失業と倒産をさらに増大させる小泉「改革」の中止は、自殺防止の上でも避けられない課題です。