日本共産党

2002年8月19日(月)「しんぶん赤旗」

ゆうPRESS

熱狂しにきた

フジ・ロックフェス9万人


 この夏、大規模な野外音楽イベントが目白押し。茨城、北海道、東京、千葉、静岡など、いずれも数万人の若者が集まります。その先頭を切って、新潟県苗場スキー場で開催された「フジ・ロック・フェスティバル」。日本と海外から百組以上の人気ロックグループが結集した同フェスには、過去最高の九万人が集いました。どんな気持ちでやってきたのか。人波にもまれながら、突撃インタビューを試みました。浅尾 大輔記者

まるで海水浴場

「自由だなー」

 JR越後湯沢駅からバスで四十分行った山間のスキー場。大小のテントやマットで埋め尽くされ、色とりどりのTシャツや水着を着た若者たちが寝そべるゲレンデは、まるで浜辺のようです。ステージ前では、音楽に合わせて手や頭が波のように揺れています。

 「『しんぶん赤旗』の記者なんですけど」「アカハタ? 何スかそれ」「日本共産党の機関紙なんです」「へえー、そういう人も取材にくるんだ」――そんなやりとりもしながら、インタビューをつづけました。

 「大自然のなかで、何の気がねもせずに、大音響でロックが聴けるっていうのが、やっぱ最高ッス」

 四回目の参加というタツヤさん(26)は、フリーターでした。大阪からオートバイに乗って十三時間かけてやってきました。真っ黒に日焼けした二の腕から肩にかけて、クジャクの刺青(いれずみ)が見えます。

 七月二十六日から二十八日まで、三日間通しのチケット代は三万八千円。「木曜日に大阪をたって、月曜日に帰る。こんな自由ができるのは、プー(無職)だから。チケットは高いけど、これだけのラインナップは、ちょっと聴けないからね」

 神奈川県の電機メーカーで働くアキコさん(21)は、一泊二日コース。「土日でリフレッシュしたい」と参加しました。費用を抑えるため、民宿で素泊まり。「四日間しかない夏休みは、別に使う予定です。来年は、もっとテンション(緊張)を高めるため、友達ときたい」といいます。

 ヤムさんとヤンさんは、「ご夫婦で?」の問いに、顔を赤くして首を横に振りました。二人は、十九歳の大学生でした。「音楽雑誌を読んで、自由だなーっ、いつかきたいなあーっと思っていたんです」。フェスに参加するため、塾講師のアルバイトでためたお金を全部つぎ込んだといいます。

暑さも吹っとぶ

 今年で六回目となるフジ・ロックフェスには、海外からレッド・ホット・チリ・ペッパーズ、ペット・ショップ・ボーイズらが参加。迎え撃つ日本勢に、井上陽水、元ちとせ、忌野清志郎&矢野顕子などが名を連ねます。

 栃木県からテント持参できたタカヤさん(23)は、「浅井健一(元ブランキー・ジェット・シティー)が弾くギター姿を一目見たくて」。この日の最高気温は三二度ですが、「仕事のときに感じる暑さと全然違う。気持ちいいくらい」といいます。タカヤさんの仕事は、観葉植物用の土壌をつくる“土屋さん”。「朝四時から正午までショベルカーで土を盛ってるけど、月たった十七万円にしかならない」とぼやきました。

 タダシさん(27)は、沖縄県で両親と農業を営んでいます。台風でゴーヤー畑が全滅。「音楽なんて聴いてる場合じゃないと思うけど、仕事がなくなっちゃったので、ついきてしまった」と笑いました。

 若者たちの話をききながら、開放感のなかに身を浸していたいという切実な欲求を感じました。決して豊かでない若者たちが、必死で生きている姿も透けて見えました。

 山に日が落ちるころ、井上陽水のステージが佳境に入りました。ラストの曲は「最後のニュース」。人類が抱える戦争や環境問題について問いかけます。

 ♪忘れられぬ人が銃で撃たれ倒れ/みんな泣いたあとで誰を忘れ去ったの……

 若者たちは夜明け近くまで、熱のこもったバンド演奏に酔いしれました。


“音楽はきれいなところで聞こう”

環境NGO活躍

 「フジ・ロック・フェスティバル」は、“世界で一番クリーンなイベント”としても知られています。参加者がすすんでゴミを分別する姿は、自然な風景です。今年から、使用する食器三十万食分をダイオキシンが出ない紙食器に変更しました。また、ドリンク売り上げの一部をアフガニスタンの医療NGO「ペシャワール会」へ募金することにしています。

 同フェスの広報を担当する高瀬由紀夫さん(50)は、「環境NGOで活動する若者たちを抜きに、フジ・ロックは語れない」と言い切ります。そのNGO団体「A SEED」理事の中島悠さん(21)は、「好きな音楽を聴くなら、気持ちのいい空間で聴きたい。その思いを形にしようと、最初はゴミ拾いから始めた。いまではゴミの分別が定着し、自立型のリサイクルへと広がったのはよかった。僕らは、ワイワイやりながら社会の役に立っている、というのがうれしいんです」。


地元に安心野菜いかが

茨城にUターン谷中希久子さん

 「中二百円、おっきい方三百円。三百円のを買ってくれたら、ちょっとおまけするよ」。赤・黄・白の小菊を束ねながら元気な声を響かせるのは谷中(やなか)希久子さん(24)です。

 ここは茨城県下館市役所の駐車場。毎週日曜日、夏は朝六時半(冬は七時半)から朝市がたち、ジャガイモやきゅうり、キャベツなど新鮮な野菜や花が並びます。

 谷中さんにとって、朝市はもうけを出すのが目当てではないので、一本五十円が相場という小菊も格安販売。「お客さんとの触れ合いが楽しいんです」と笑います。高原野菜が出回る夏の収入源にと昨年から始めた小菊。春、秋、冬はネギと小松菜を出荷します。

 「本当においしい野菜を食べたいし、食べてほしいんです」という谷中さん。本格的に農業を始めたのは、昨年の春からでした。

 短大で栄養士の資格をとった後、市内のお弁当会社に勤めました。しかし体調を崩してしまい、休暇をとります。「体が治るまで」のつもりで、実家の手伝いをはじめたのがきっかけでした。

 谷中さんは少しでも農薬に触れると手肌がかぶれる体質です。だから野菜は無農薬。新鮮でおいしい作物を「産直」(産地直送)で消費者に届けています。ニンジンやキャベツ、カブなど、たいていの野菜も自家消費用として作っています。

 いま、スーパーでは冷凍食品が花盛り。手軽に調理できるので、ついつい手が伸びてしまいます。しかし今年三月、中国産の冷凍ホウレンソウから基準値の九倍という農薬が検出されました(農民連調べ)。

 谷中さんは横浜港で野菜の輸入現場を小学生のころから三回、見学しました。野菜の入った容器のふちは腐っていました。しかし、中の野菜はつやつや光っていたのです。「どれほどの防腐剤や農薬が使われているのかを考えると、怖くて怖くてたまらない」

 野菜そのものの味が分かる、甘みが伝わる野菜を食べたい。「安全性や鮮度は、地元で作っている野菜が一番」。谷中さんは決意します。

 「自分で加工食品をつくろう。地元の野菜で惣菜やさつまいものようかんやキウイのシャーベット、イチゴのジャムなどのデザートを作れば、お店で売れる」

 そのために調理師の資格を取りました。母方の実家の大工の協力も得て、調理場を造る計画もたてました。これから管理栄養士の資格もとる予定です。

 「毎朝五時起きで、眠いなーと思うこともあります。たくさん収穫があっても値段が安くなってしまったりするのはつらい。でも、本当に安全でおいしい野菜を食べてほしいし、そのつもりで作っていれば、消費者も必ず理解してくれると思っているんです。まずは朝市に出そうと思っているんです」


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