2002年8月18日(日)「しんぶん赤旗」
自民党橋本派担当の政治部記者は十六日夜、京都で野中広務元幹事長(橋本派副会長)とともに「大文字の送り火」を見ました。「内閣改造、民主党代表選への自民党のかかわりなど野中さんの話を聞いておかないと政局が読めなくなるから、おまえも行ってこいとデスクにいわれたんですよ」と若い記者が語ります。
同じ政治を取材し論評する立場の一般紙記者の言動に無関心ではいられません。誰と誰が会合したとかの政局の内輪話ではなく、小泉政治をどう見ているか、有事法制の評価は、戦争と平和にかかわる問題をどうとらえているか。彼らが書く記事は国民に小さくない影響を与えるからです。
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〇…先ごろ大手三紙の政治部長によるシンポジウムがありました。政治部長といえば政治取材の最前線指揮官で、政治取材を統率し、政治面の論調を決する立場です。
小泉政治をどう評価するか。上村武志・読売新聞政治部長「小泉政治が掲げたテーマは全く間違っていない。小泉政治、小泉改革を間違っても見放すようなことがあってはいけないんじゃないか」
外山衆司・産経新聞政治部長(当時)「このやり方自体は否定すべきものではなく、小泉さんが総理になったからできたことだ」
芹川洋一・日本経済新聞政治部長「小泉さんがおっしゃる通り、自民党をぶっ壊す、そしてその先に新しいものをつくるしかないんじゃないかな」
有事法制についてはどうか。上村・読売政治部長「有事法制を整備するという一歩を踏み出すことは大いに評価。読売新聞の立場として(法案に)不備はあるけれども成立は急ぐべき、その上で(不備は)埋めていく努力をするべきという立場で報道も論説でも展開している」
外山・産経政治部長「不完全であっても一歩進むというのは必要なことだ。武力と付くと何でも反対だという一部の論調があるけれど、それは全く理解できない」
芹川・日経政治部長「憲法の枠内でも、一つの(有事法制の)法制法体系全体を考えていくことが必要というのが私の考え方です」(以上、『労政ジャーナル』七月号所収一部要約)
政治論評を担当する編集委員クラスは、どんなスタンスか。星浩・朝日新聞編集委員は「二〇〇一年六月に(小泉内閣の)『経済財政運営の基本方針』がでました。“骨太の方針”ということで、私は今でもこの基本的なスタンスは正しい方向だと思っています」。(労組トップセミナーでの講演・『労政ジャーナル』六月号)
政治部長、編集委員クラスは日々、小泉政治を基本的に「肯定」「支持」する立場にたち、失業、健保負担増に象徴される小泉構造改革路線を「正しい」とする立場から報道していることを隠していません。
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〇…小泉政治の実態が分かりはじめた国民は小泉人気の熱気から冷め誇大報道をあおったマスコミへ厳しい目を向けます。
「戦争」といわず「有事」と言い換える、国民「統制」法制を国民「保護」法制と書く、小泉政治を「改革勢力対抵抗勢力」の対立構図だけで描く、アメリカのテロ報復戦争に、ほぼ国内全紙の社説が肯定する論調を掲げる…政治報道に国民はおかしさを感じ、不信感を募らせています。
〇…五十七年前、大量伝達(マスコミ)という手段をつかって、軍国政府の走狗(そうく)となって侵略戦争へ国民をあおり動員した痛苦の反省から再生・再出発を誓ったはずの日本の新聞・報道機関、そして記者たちでした。再びマスコミが国民を誤導することはないとの国民の信頼が戦後の報道機関の生命力であるはずです。
国民はマスコミ報道を通じる以外に世界と日本の動きを知る身近な手段を持ちません。マスコミ報道機関に認められる公的便宜は国民の知る権利の一部が委ねられているというところにも根拠があります。
「大文字」を自民党実力者と眺めながらの政局見通しを見定めるのもいいですが、政治を動かしているのは一部実力政治家でなく国民世論であることを、いま直視してほしい。先の通常国会で与党もマスコミも当初はほぼ成立まちがいなしとみていた有事法制三法案、個人情報保護法案が広がる国民の批判で未成立に追い込まれた実例を冷静に見つめ直してほしいものです。
政治報道の原点である「国民とともに立つ報道機関」に思いを寄せた報道姿勢と記者《を望みたいです。(協)