日本共産党

2002年8月8日(木)「しんぶん赤旗」

自衛隊の各大学への働きかけ

将来の人材確保が狙い


 自衛隊の各大学への働きかけが明らかになりました。(一面所報)自衛隊は国民の理解を得るために、以前から子どもからおとなまでを対象に、戦車や大砲、ヘリを見せたり護衛艦に体験搭乗させるなどの広報活動を行ってきました。

法科を重視

 このほど明らかになった大学への働きかけは、これらの広報活動とは次元の異なるものです。それは(1)自衛隊側から大学を選出している(2)費用は自衛隊が負担(3)大学側・教官の協力を得ている(4)法学、国際政治関係を中心に働きかけている―等の特徴があります。

 少子化傾向の中で防衛庁・自衛隊も組織の発展のために優秀な人材確保に力を入れざるを得ません。現在、防衛大学校の学生は理工科系が中心で、国際政治や法律関係はほとんどいません。が、有事法整備後は、地方自治体との関係においても法律の専門家が不可欠となってきます。海外での活動が増加していることから国際政治分野の強化も必要です。自衛隊が大学への働きかけを強めているのは、こうした背景要因があり、民間協力の一環として位置づけています。

 大学に対する自衛隊側の広報の中心は、佐官クラスの幹部による「安全保障問題と日本の防衛」の講義・講座です。その上でヘリやP3C哨戒機、護衛艦などに体験搭乗させ、国民の見えないところで日夜、日本の防衛に携わっている自衛官の生の姿を見せ、彼らと意見交換する筋書きです。

 大学側も単位の伴った授業の一環のため、自衛隊の広報活動に場所を提供するというわけにはいかず、教授や助教授による講義が組まれ、「共同研究」という形をとっています。ある教授は「自衛隊の組織、能力の実態を、任務にあたっている人々を通じて理解することは、安全保障政策を考えていく上で意義がある」と話しています。

認知を狙う

 自衛隊と大阪大学大学院生との「共同研究」では、ロールプレーイングゲームというシミュレーションを使った「模擬戦争ゲーム」が取り入れられています。そこでは湾岸戦争を想起させるシナリオがあり、アジアにも戦火が飛び火して、日本のフェリーが国際テロ集団に乗っ取られます。ゲームをしきる統裁官から「日本沿岸の遊園地、原発のある港に向かっている」「国籍不明機が領空侵犯」という緊急事態が新たに付け加えられ、それらへの対処を求められます。

 その模様を防衛庁の準機関紙『朝雲』(二月七日付)では、「ホワイトボードに書きなぐった項目を前に緊迫した言葉が飛び交う。『レンジャーを突入させよう』『やらなくてどうする』といった声もブースに響いた」と紹介しています。

 大学で法律や国際政治を勉強していても抽象的なものになりがちですが、湾岸での米軍への協力やPKO協力といった具体的な体験談を聞かせられると、新鮮味をもって受け入れられることになります。

 そこへ日米共同作戦のシナリオにもとづく演習のシミュレーションや体験搭乗を行えば、心理的には容易に自衛隊の任務に同化してしまいます。

 ある軍事アナリストは「シミュレーションによる『共同研究』といっても、学生や教官には兵器の能力、性能などについて軍事知識がないから、始めから勝負はついているし、自衛官が大学から学ぶことなどないだろう。結局、学生の意識に残るのは、国家的危機に対しては軍隊が必要だということになってしまう。国家としての安全保障問題の研究というより、自衛隊のシナリオにそって自衛隊を認知させるねらいしか見えてこない」と語っています。(米田憲司記者)

 


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