2002年8月4日(日)「しんぶん赤旗」
五日に実施予定の住民基本台帳ネットワークシステム(住基ネット)。地方自治体の不参加や延期を求める声が相次ぐなか小泉内閣が強行しようとする背景の一つに「電子政府・電子自治体」構想があります。
「(住基ネットは)電子政府・電子自治体を実現する基盤となります」。総務省市町村課のパンフはこう強調します。片山総務相も「電子処理、IT化の基盤になっていく」と語っています。
電子政府・自治体とは各種の行政手続きをインターネットを使ってできるようにすることです。
確定申告など行政にたいする申請や届け出などは現在、書面や役所の職員との対面形式でおこなわれています。「電子政府・電子自治体」では、それをパソコンを使ってできるようにし、公共工事の電子入札なども計画されています。
こうした申請のさい本人確認に使われるのが住基ネットの個人情報(氏名、住所など)です。
同構想は森内閣時代、「世界最先端のIT国家をめざす」という「e―Japan戦略」として打ち出されました。
小泉内閣のもとで二〇〇三年度の達成をめざしてコンピューターシステムなどの基盤整備や電子申請などのシステム構築がすすめられています。
電子政府・自治体のねらいは何でしょうか。
その代表例として、「『一つ』の電子政府実現に向けた提言」(経団連=当時、二〇〇〇年)などで財界が求めてきた「自治事務の標準化」があります。
例えば建築確認申請の場合――財界は、事前協議など手続きが複雑で、各自治体によっても違うため、企業の負担が大きいとして、簡素化や統一化を求めてきました。
現在、各自治体は、良好な住環境を維持するために、独自のまちづくり条例などをもとに事前協議などさまざまな申請手続きを設けています。
財界の要求が通れば、こうした努力は水の泡です。企業の利益追求のために規制を取り払おうというねらいです。
『「電子自治体」が暮らしと自治をこう変える』の著者で、自治体情報政策研究所代表の黒田充さんは「電子自治体構想がすすめば、地方自治は形がい化される危険性があります。公共サービスの民間委託や人員削減につながるため、全国三千二百の自治体を千ぐらいに減らすという、政府による市町村合併のテコになります」と指摘します。
電子政府・自治体構築に約二兆〜三兆円、運用でも毎年約一兆円の需要が見込まれています。
波及効果をあわせると十兆円を超えるともいわれるとあって、業績不振にあえぐIT企業各社は官公庁向けの営業部隊を創設するなどして、し烈な売りこみ合戦を始めています。
電子政府・自治体事業を受注しているのは、NEC、富士通、NTTデータ、日立、東芝といった大手システムメーカー。上位四社だけで全体の八割にのぼるといわれています。
前出の黒田さんはいいます。「住基ネットは、ITを政府による情報の一極集中と管理統制に使おうという悪い典型例です。ITはほんらい地方自治を豊かに発展させる可能性をもっています。しかし、住民の要求にもとづき、自治体がそれぞれ判断すべきことであって、国家戦略として押しつけられるようなものではありません」 (深山直人記者)