日本共産党

2002年8月4日(日)「しんぶん赤旗」

マスコミ時評

「医療改革」――どこまで国民を惑わすのか


 労働者や退職後の年金生活者の病院窓口負担を医療費の二割から三割に引き上げる医療改悪法が国会で成立し、政府はことし十月、来年四月の二段階で実施に移そうとしています。

 一割から二割へ二倍増を押しつけた一九九七年の改悪からわずか五年で三割負担の導入。失政から保険財政の危機をまねきながら、これを病気で弱っている人たちへのしわ寄せでしのごうというもので、暮らしを守るはずの政治の在り方としても尋常とはいえません。広範な運動が起こり、反対意見が世論の多数を占めるに至ったのも当然です。

審議中と成立後の扱いに大きな落差

 改悪法成立(七月二十六日)を受けて、翌日付マスコミ各紙は「改革の痛み1兆5000億」(「読売」)、「医療費の負担重く」(「日経」)、「財布に重荷ジワリ」(「産経」)などの見出しをかかげ、負担増の影響に注目しました。

 なかには紙面の一ページを全面使った特集(「朝日」七月二十六日付)もありました。

 小泉首相が一日の記者会見で冒頭から、「痛みを押しつけるというのは誤解」と弁解を繰り返したのも、この影響があったのかもしれません。

 しかし、成立にいたる法案審議のマスコミ各紙の扱いは驚くほど地味で、落差と思わざるをえませんでした。

 衆院での強行採決のあと、参院での実質審議は七月の一カ月間(委員会開催は週二回)で打ち切られましたが、この短期間にも論点は十分見えたと思います。

 「重い負担」を来年四月に実施する財政上の根拠があるのか、不況の最中に景気回復の要となる個人消費を冷やす巨額の負担増が妥当なのか、医療・年金・介護の負担増が重なり総額三兆円を超える負担増なのに経済への影響も考えずに実施していいのか、保険財政をいうなら高い薬価にもっとメスをいれるべきではないか――野党から提起され、自民党議員からも小泉内閣、厚生労働省に向けられた論点です。

 国民にとっては切実で、まともな政府答弁が示されなかっただけに、マスコミも当然とりあげていいテーマでした。

 これにこたえて国民に判断の材料を提供したといえる、まとまった記事は、とくに衆院通過後の審議報道のなかに見ることはできませんでした。

 委員会開催日の傍聴席は衆参通して毎回満席となり、立ち見、通路の座り込み傍聴もでるほど。今国会でもひときわ国民の高い関心を集めた法案審議でした。マスコミ自身の世論調査でも反対が多数を示したのですから、この世論の流れにこたえることに何の障害もないはずです。

 法案を提出した責任者の一人、宮路和明前厚生労働副大臣が、帝京大学医学部の入試で口利きをしていたという日本共産党の追及(七月十一日)は大きく報道され、医療改悪法案成立に緊迫した局面がうまれました。しかし、この緊迫の法案審議を受け三万人を超える参加となった七月十九日の大集会を各マスコミは黙殺。国民の大きな怒り、集会の存在そのものを否定した結果となり、「痛み」を本当に痛みとして感じているのか、疑問がわいてきます。

小泉内閣、与党の責任問う声なし

 成立後の各紙「社説」は、負担増の影響を指摘しつつ、「伸び続ける医療費を賄うためには、ある程度の負担増はやむを得ない」(「朝日」七月二十七日付)、「負担増に見合う抜本改革を急げ」(「読売」同二十八日付)、「質の確保と効率化という制度改革をやりぬくことが、今回の法改正で負担増を認めた条件なのだ」(「毎日」同三十日付)など、“負担増やむなし”の一色。中央公聴会も開かず、衆参二度にわたる強行採決で法案を強行した小泉内閣、与党の責任を問う声はありません。

 「抜本改革」を求めるマスコミの論調にたいし、小泉首相は一日の記者会見で、「高齢者医療の在り方を今のままでいいとは思わない」とのべ、改めて高齢者に新たな負担増を求める高齢者医療制度の実現をめざす決意をのべました。小泉内閣の「抜本改革」は、公的医療保険の対象をせばめ、差額ベッド代のような保険外の患者からの料金徴収を拡大することまで視野にいれています。いっそうの負担増の拡大のみならず、医療水準の切り下げの危険さえはらむものです。

 小泉首相のいう「抜本改革」の具体化をもとめたり、具体化へのとりくみで首相の「指導力」を評価しようとするマスコミの論調には、小泉「改革」への批判的視点はまったくありません。それは、安心の医療、暮らしを守る社会保障をのぞむ国民をまどわすものです。 (斉藤亜津紫記者)

 


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