2002年7月30日(火)「しんぶん赤旗」
富士通が経営の厳しさを理由に、長野工場(長野市)の全従業員二千人を対象に早期退職の募集を始めました。ほとんどの人は希望退職に応じるか、関連会社や新会社への転籍を選択しなければなりません。発表から一カ月未満の八月九日までに最終選択を迫る性急さで、従業員を苦悩のどん底に陥れています。同じ長野県内の須坂工場(須坂市)でも千人規模の募集が始まっています。
長野工場の早期退職募集はプリント基板部門の全社的な再編がきっかけになっています。基板関係の六百人だけでなく、残る千四百人が在籍する大型コンピューターの記憶装置部門や管理部門なども含め、全従業員が原則、早期退職募集への応募を求められています。
プリント基板部門の五十代の女性は「まさか全員が早期退職の対象になるとは思ってもみなかった」と、ショックを隠し切れないようすです。
「一部の人を除いて会社に残るという選択肢はなく、従業員の多くはこんな会社のリストラ策に納得していません」
退職する従業員の選択肢は、自分で再就職先を探すか、関連の人材派遣会社や介護サービス会社に転籍するしかありません。全社的な再編にともない今年十月に長野工場内に設立する四百人規模のプリント基板開発・試作の新会社への転籍もありますが、長野工場から何人採用されるか定かではありません。
しかし、従業員の多くは関連会社や新会社への転籍を拒否しています。関連会社の賃金が大幅に低下するとみられ、雇用形態が契約社員や登録派遣社員という不安定な形だからです。新会社も賃金について「マーケットの状況に応じて競争力のある水準」とし、勤務形態は「交代勤務や変形労働時間制など柔軟に勤務シフトを変更する。変更にあたって個別協議をおこなわない」と厳しい労働条件です。
三十代の女性は「一、二年後にどうなるかわからない所に転籍はできない」といいます。
千二百人の従業員がいる須坂工場内でも状況はほぼ同じです。五十代の女性社員は、個人説明会の場で「退職に応じなければどうなるのか」とただしましたが、会社側は「残留は想定していない」と答えました。「早期退職募集とは名ばかり。実態は退職強要」と怒りをあらわにします。
リストラは富士通本体にとどまらず、同県内にある子会社や関連会社の従業員に大きな影響を及ぼしています。
光ファイバーの組み立て、試験作業などをしている子会社の長野カンタムデバイス(長野市)もその一つ。富士通の早期退職募集の発表と同時に、うり二つの早期退職募集制度を発表しました。全従業員の半数にあたる百五十人が募集人員で、富士通から「達成するまでやれ」と至上命令が出ているといいます。
同社勤務の女性は「不安で不安でたまらない。辞めれば再就職先はないし、自分の老後も安心できなくなる」といい、別の女性も「定年まで働きたいし、仕事がないと人間もだめになる。退職には応じない」と語ります。二人とも拒否する決意です。
今回の一連のリストラにともない別の系列会社である富士通カンタムデバイスを閉鎖し、長野カンタムデバイスに事業を集約します。富士通カンタムデバイスに出向している富士通本体の従業員を受け入れるためのいわゆる「玉突き」です。
従業員が数十人の零細の関連会社でも、三分の一以上の従業員が何の説明もなく解雇通告される事態となっています。十人が決起して労組を結成、解雇撤回を求めて立ちあがっています。
「母子家庭の従業員が何人もいます。おかまいなく解雇するのは許せない」と、新労組委員長の女性は話します。
理不尽な退職強要に怒りがひろがる一方で、「経営責任をとらず、従業員に犠牲を押しつけるだけの富士通で働きたくない。この際、辞めたい」という従業員も少なくありません。
長野工場の五十代の女性はこういいます。
「退職に応じない、富士通に残りましょう、の声を大きくしていきたい。その輪を早急にひろげることが非常に大事になっています」
富士通の長野県内での大規模なリストラにたいし日本共産党長野県委員会の富士通リストラ対策本部と同党県議団、須坂市議団は二十九日、県にリストラ計画の全容を明らかにし、雇用確保と関連企業への緊急対応を要請しました。
阿部守一副知事は「富士通から話を聞いておしまい、とはしない。きちんと対応したい」と語り、県として(1)富士通に対しリストラ計画の公表と、雇用確保と関連企業への配慮をするよう求めた(2)関係自治体や信用保証協会などに関連企業の資金繰りなどに配慮してほしいと商工部長名で通達をだした(3)長野労働局労働部長に副知事が雇用確保の具体的対応を要請し、長野地方事務所商工課と関係ハローワークで連絡会議を発足させ、労働者の相談を受け連携して対応をはじめた――ことを明らかにしました。
中野さなえ本部長らは、「労働者は正確な情報もなく、生活設計自体に大きな不安をもっている」「ろうあ者の対応を迅速にしてもらった。引き続き努力してほしい」と要望。阿部副知事は「現場の声をまた伝えてほしい」と積極的な姿勢を示しました。
日本共産党長野県委員会はいち早く、「富士通長野工場と北信地域の関連企業の大リストラ計画から労働者の雇用と地域経済を守る対策本部」(中野さなえ本部長)を設置。二十九日、緊急にビラを作製し、長野、須坂両工場の門前などで配布を開始しました。
下請け企業の労働者が「うちの門前でも配ってくれ」と話したり、「もう共産党しかない。がんばってくれ」と声がかかり、反響をよびました。
ビラは、本人の同意なしにやめさせたり、遠隔地へ配転させることはできないことや、新会社の労働条件を示さず、労働契約の変更や転籍を強要するのは違法であることを紹介。「転進支援プログラム申請書・退職届」を出す前に家族や生活のことを冷静に考えようと「個別面談の十の心得」を掲載し、「富士通に残りましょう」「みんなの力で生活できる道を切り開きましょう」とよびかけています。