日本共産党

2002年7月29日(月)「しんぶん赤旗」

女子中学生れき殺事件

「米兵を韓国で裁け」

青少年立ち上がる


 韓国で女子中学生二人が米軍の装甲車(仮設架橋運搬車両)にれき殺された事件(六月十三日)の解決をめざし、青少年が行動に立ち上がっています。中学生から社会人までが参加する「女子中生殺人事件・青少年対策委員会」が発足し、署名・募金活動、集会などの運動を繰り広げています。

 韓国では、米軍は韓国の安全のために不可欠、という考えが長年の“常識”でした。しかし、続発する米軍の事件、北朝鮮との和解・交流の流れは、この“常識”への疑問を国民に抱かせています。

 二十七日、ソウル市内の公園で開かれた「女子中学生殺人糾弾、第五回国民大会」。対策委員会の高校生が発言し、「常識が通じる社会なら、米兵犯罪者を韓国の法廷で裁くべきです。年齢や世代を超えて、みんな一つになりましょう」と訴えました。

 在韓米軍地位協定によれば、「公務中」の米軍による刑事事件の裁判権は米軍にありますが、韓国側が裁判権の引き渡しを求めれば、米軍は「好意的に考慮」しなければなりません。

 各大学では、裁判権の引き渡しを求める署名活動や支援の募金集めが活発です。建国大学の学生、徐美香さん(20)は、「大学につくった焼香所にたくさんの学生が訪れました。夏休みに入って学生も少ないのですが、みんな積極的に協力してくれます」と、若者の関心の高さを語ります。


“韓国が変わり始めた”

「れき殺米兵 国内で裁け」街頭に出た中高生


「乗客のみなさん、協力して」

 事件を起こした米兵は、京畿道議政府市に司令部を置く米第二師団の工兵部隊所属です。議政府市と近隣の坡州市、東豆川市は、在韓米軍基地が密集する地域です。

 議政府駅に向かう地下鉄の車内に、女子高校生の声が響きました。「乗客のみなさん。私たちは米軍装甲車に命を奪われた女子中学生、シン・ヒョスンさんとシム・ミソンさんの事件を解決するために活動する青少年です。米軍はうわべの謝罪しかしていません。韓国で裁判を受けさせるために協力してください」。訴えに耳を傾けていた乗客が、次々と財布を取り出し、若者が抱える募金箱にお金を入れます。

 この日は、中学生から社会人まで、多くの若者たちがソウル、議政府市を中心に多彩な行動を展開した十七日の「青少年共同行動の日」。主催したのは「米軍装甲車による女子中学生死亡事件青少年対策委員会」です。議政府青少年会、二十一世紀青少年共同体「希望」などが中心になって結成しました。

 議政府駅前の広場で開かれた集会で、四百人以上の若者を前に、亡くなった女子中学生シム・ミソンさんの兄で高校三年生のシム・ギュジンさん(17)が語り始めました。

 「友だちの誕生日パーティーに行って来るね、と言って出かけたのが、生きている最後の姿だった。その次に見た妹は、巨大な装甲車に押しつぶされた姿になっていた」。しばらく黙ってうつむいたままのギュジンさんは、か細く震える声で続けました。「人があんなに悲惨に死んでしまうなんて理解できない。米軍がいまだに黙っている真相を、絶対に明らかにしてやる」

紙飛行機に「米軍去れ」

 通りかかった市民も、次々と集会に加わりました。北朝鮮との休戦ラインに近い江原道鉄原の出身だという六十歳代の女性が言います。「ミソンもヒョスンも、私たちみんなの娘だよ。私らの世代は、なにをされても泣き寝入りだったけれど、もうそんな世の中は絶対に変えなきゃね」

 夕方、集会は米第二司令部前に場所を移しました。集会で発表された「青少年決議」は、ブッシュ米大統領の謝罪、事件の真相究明、責任者の処罰、米軍による裁判権の放棄などを求めました。

集会の自由を

 一人の高校生が残念そうに言いました。「来たかったのに来れない友だちもいる。学校から、集会なんかに行くな、と言われてね」。青少年決議は、「学校は憲法と子どもの権利条約に明示された学生の集会・結社の自由を侵害しないこと」も要求しました。

 集会の締めくくりに、「裁判権を放棄せよ」、「米軍は韓国から立ち去れ」と書いた赤い紙飛行機をみんなで司令部基地内に飛ばしました。

 機動隊の厚い壁に阻まれ、何百もの紙飛行機はなかなか基地内に届きません。見かねた取材カメラマンが、撮影用の脚立に登って基地内に紙飛行機を飛ばしました。

 米軍基地返還運動に活躍する文正鉉神父は、集会を見守りながら言いました。「中高生が立ち上がれば社会が変わる、という。韓国の歴史がそうだ。これだけの生徒が街頭に飛び出したのは、(李承晩独裁政権を倒した一九六〇年の)四・一九学生革命以後では初めてだろう」

米軍「報道があおった」

米兵出頭せず

 広がる一方の抗議の動きに対し、米軍は「誠意をもって対応している」と反論します。米軍は韓国法務省の賠償審議会が決定した賠償金支払いに応じました。賠償額は、シン・ヒョスンさんの遺族に一億九千六百二十六万ウオン、シム・ミソンの遺族に一億九千五百四十五万ウオン(一ウオンは約〇・一円)。地位協定に従い米国が75%、韓国が25%ずつ負担します。

 米第二師団は、事故現場近くに追悼の碑を建立する計画だといいます。

 しかし、こうした行動を遺族や国民は冷やかに見ています。事故を起こした車両に乗務していた二人の米兵は、検察の出頭要請に応じていません。事故の責任を問い、遺族が検察に告発した前第二師団長と部隊指揮官はすでに出国しました。

 韓国政府は十日、米軍に裁判権放棄を要請しましたが、いまだに回答がありません。

世代超える声

 さらに、米軍の本音をうかがわせる資料が明らかになりました。十四日、アノレイ第二師団長と遺族の面会記録です。師団長は、「謝罪」を口にする一方、「多くの(在韓)米軍将兵が訓練中に死亡しているが、韓国人は無関心だ」、「誤った報道にあおられた市民のデモが心配だ」と暴言を吐いていました。

 在韓米軍司令部があるソウルの龍山基地前、米大使館前、議政府の米第二師団司令部前では、連日のように集会が続いています。「米兵を韓国の法廷で裁け」の声は今、世代や階層の違いを超えた韓国国民の世論のうねりとなって在韓米軍に迫っています。(面川誠記者)


 ●女子中学生れき殺事件 6月13日、ソウル北方約30キロの京畿道楊州郡広積面の2車線一般道路で、道端を歩いていた女子中学生2人が、米第二師団所属の装甲車(仮設架橋運搬車)に後方かられき殺された事件。米軍車両は、住民に事前通告せずに、歩道のない一般道路で移動作戦訓練中でした。当初、責任を否定していた米軍は、高まる非難のなか4日になって「過失致死」を認め、米兵を米軍の軍事法廷に起訴しました。

 


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