2002年7月27日(土)「しんぶん赤旗」
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自民・保守、公明の与党が二十六日の参院本会議で医療改悪法案の採決を野党欠席のまま単独で強行した暴挙は、国会史上、例をみない無理、無法を重ねたものです。
何よりも異例なことは、二十五日の参院厚生労働委員会の強行採決前に、与党側から法案採決について提案がいっさいなかったことです。
二十五日朝の同委理事会では、こんなやりとりがありました。
野党 本日、採決という報道があるがどうなのか。
与党 今の時点では考えていない。
野党 だまし討ちのようなことは許されない。
理事会の場では、いっさい採決の提案がないまま、その日の委員会で突如質疑打ち切り動議を出し、強行採決した与党のやり方は、まさに“だまし討ち”そのものでした。
長野県から傍聴にきていた診療所勤務の男性(28)は「これが国会なのか。こんなことがやられているのか。あれで(法案が)通ったことになるのか」と、驚きを隠しませんでした。
そのうえ、強行採決は、すでに与野党が合意していた審議日程さえ踏みにじっておこなわれました。
二十五日朝の理事会では、自民党の中原爽議員の質問の後も、公明党、日本共産党、国会改革連絡会、社民党が質問するという審議日程を、自民、公明も含めた与野党で確認していました。
中原氏の質問終了後にいきなり質疑を打ち切ったのは、国会議員の質問権をはく奪するものでした。
公明党は法案採決にあたっての談話で「法案についての審議が尽くされていた」(公明新聞二十六日付、木庭健太郎・参院公明党国対委員長)と述べていますが、それなら、なぜ、公明党の草川昭三氏は中原氏の後に質問することになっていたのか。与党側の説明は論理矛盾で、まったく成り立ちません。
自民、公明は、野党側が求めていた中央公聴会の開催要求にたいし、二十五日朝の理事会で「再度(国対で)協議して伝える」と約束しながら、回答すらしませんでした。
公聴会は、国会法第五一条で「総予算及び重要な歳入法案については…開かなければならない」とされています。一兆五千百億円もの負担を国民に押しつけるという今回の医療改悪は、歳入法案に準ずるものであり、各種世論調査でも国民の六割が反対していました。国民の声を聞く公聴会開催は、必要最低限のものでした。
健保本人二割負担を導入した一九九七年の医療改悪、九四年、二〇〇〇年の相次ぐ年金改悪の審議の際にも公聴会が開かれています。今回の与党の暴挙は、これまで悪法審議の際にも与党が実施してきた国民の声を聞くという最低限のルールさえふみにじったものです。
自民、公明が衆院で医療改悪法案を単独強行採決したうえ、参院では衆院以上の暴挙を重ねたのは、これ以上審議すれば、法案に反対の声がますます広がることを恐れたものです。
長期の不況のもとで、国民に一兆五千百億円もの負担を押しつける医療改悪の道理のなさが、その根本にはあります。
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医療改悪法では、サラリーマンや公務員本人の窓口負担は、来年四月から三割に引き上げられます(現行は二割負担)。会社や役所を退職した年金生活者(退職者医療制度)も三割負担に。家族が入院したときの負担も、三割に上がります。七十歳以上のお年寄りについては、ことし十月から患者負担増が実施されることになります(図上)。多くの診療所で実施されている一回八百五十円(月四回まで負担、五回目からは無料)の定額負担制は十月から廃止され、一割負担が徹底されます。
一定以上の所得がある人(一人暮らしで年収約三百八十万円以上、夫婦二人世帯で同六百三十万円以上)は、二割負担にはね上がります。
さらに、現在は通院の場合で月三千二百円(大病院は月五千三百円)までとなっている患者負担の上限制を廃止。現役世代と同じように、窓口でいったん一割負担分(一部は二割)を全額支払ったうえ、あとで自己負担限度額を超えた分が払い戻される償還払いのしくみになります。
七十歳未満の患者の自己負担限度額も引き上げられます。(図下)
サラリーマンや公務員が毎月の給料から支払う保険料も、来年四月から一人あたり平均で年三万円(労使折半)値上げされます。
改悪後は、ボーナスからも月収と同じ割合で保険料を天引きする「総報酬制」を導入。年収のなかでボーナスの割合が高い人ほど大きな負担増になります。中小企業の労働者が加入する政府管掌健康保険の場合、保険料率は年収ベースでいまの7・5%から8・2%に引き上げられます。
厚生労働省は、これらの改悪によって国民負担が年間一兆五千百億円増えると試算しています。