2002年7月22日(月)「しんぶん赤旗」
今日の米国の核政策をまとめた文書が今年一月に国防総省が議会に提出した「核態勢見直し(NPR)」報告です。核兵器廃絶を求める国際世論の高まりを前にブッシュ政権は、核兵器への依存を減らし、核を削減するのがNPRの基本的な特徴だと宣伝しています。しかしNPRの中身は、それとは反対に、核兵器を実際に使用する政策を目指しています。NPRの危険性の特徴をみました。(ワシントンで遠藤誠二、坂口明)
NPRは米国が核兵器で対処すべき非常事態を、即時、潜在的、不意―の三つに分類しています。
即時の非常事態の例として、イラクによるイスラエルやその近隣諸国への攻撃、北朝鮮による韓国にたいする攻撃、台湾の地位をめぐる軍事的対決など、国・地域名を具体的に挙げています。
また潜在的な事態は「米国に敵対する軍事連合・同盟の出現」、不意の事態は「核保有国内の政権交代で敵対的な指導部が核を持つこと、また敵が大量破壊兵器を保持していることが突然明らかになること」とそれぞれ規定しています。
NPRは、中国、ロシアという核保有国を標的の対象にあげる一方、北朝鮮、イラク、イラン、シリア、リビアという、米国が規定する「ならず者国家」のうちの五カ国を三つの非常事態すべてに関連する国として攻撃対象に挙げています。
テロや大量破壊兵器への対抗を理由に、ブッシュ政権が五月に打ち出した先制攻撃戦略とあわせ、非核保有国への一方的核使用政策が公然となりました。とくに北朝鮮とイラクについては「慢性的な軍事的懸念国家」と述べて特別視しており、米政権が唯一の被爆国日本近隣での核兵器使用もためらわないことを示しています。
NPRの大きな特徴の一つは、核兵器を攻撃用の通常兵器やミサイル防衛(MD)などと結合して運用することを目指している点にあります。NPRは、従来の戦略核戦力の三本柱(戦略爆撃機、大陸間弾道ミサイル=ICBM、潜水艦発射ミサイル=SLBM)に代わる「新三本柱」と定式化していますが、その主要な中身はここにあります。
その意味の一つは、核兵器を特別扱いせず、通常兵器と一体化して使用するということです。
NPRは、核兵器による攻撃や、生物兵器や化学兵器による攻撃のほか、「不意の軍事的事態の展開」に対しても核兵器の使用を想定しています。「不意の軍事的事態の展開」に対処するのに核兵器が役立つというのであれば、核兵器使用には何の制約もないことになります。
米ロサンゼルス・タイムズが十三日に報じた国防総省の機密文書「二〇〇四―〇九年・国防計画指針」は、冷戦型戦略からの脱却を指摘し、先制攻撃に対処したハイテク兵器の開発の必要を強調。また、アフガニスタン型の脅威、大量破壊兵器の脅威に対処するため、正確な攻撃と地中深くにある地下施設への攻撃が可能な兵器・装備が必要だと説いています。
具体的には、アフガニスタンでアルカイダやタリバンの残党狩りに使ったバンカー・バスターの弾頭への核兵器装てんや無人戦闘機部隊の創設など、ハイテク機器を含む通常兵器との結合で、核兵器を使用しやすくすることを狙っています。
敵が所有する生物・化学兵器の貯蔵施設の破壊も目的とする地下貫通核兵器の開発などには、すでに二〇〇三会計年度から予算措置がとられる運びです。
三月に下院軍事委員会の公聴会で証言した「米現有核兵器の信頼性・安全性を評価する委員会」(米議会が設置、通称フォスター委員会)のフォスター議長は、NPRを受け、地下核実験を「三カ月から一年」の準備期間で再開できる態勢を今後二年以内にとる提言をしました。
核実験再開をめぐっては、「大統領の決定があれば二、三年以内」(九三年の大統領指令)というのが現行の決まり。しかしNPRは、「将来、重大な欠陥が発見されたときに対応するにはあまりにも長すぎる」と問題視しています。
六月に下院軍事委員会で証言したゴードン・エネルギー省核安全保障局長は、実験再開準備期間に関する研究が終了間近になっていることを明らかにしました。これにあわせ、二〇〇三会計年度の予算案は、ネバダ核実験場での実験準備態勢強化に向け千五百万ドル(約十七億六千万円)計上するよう要求しています。
NPRは、「今後二十年間の核兵器計画の主要挑戦課題は少なくとも七種の(現有)核弾頭を刷新し寿命延長を図ることだ」と述べています。
その対象に挙がっているのは次のような核兵器です。▽地中貫通核爆弾のB61―11▽潜水艦発射ミサイル用のW76とW88▽空中発射巡航ミサイル用のW80▽熱核爆弾B83▽大陸間弾道ミサイル用のW78とW87。
つまり、現在保有する核兵器をほぼ全分野で今後何十年にもわたり活用できるようにする計画が着々と進められているのです。
同時に、核兵器の新たな運搬手段の開発も目指しています。NPRでは、ICBMは二〇二〇年ごろ、SLBMは三〇年ごろ、戦略爆撃機は四〇年ごろに、それぞれ新型が必要になるとしています。
これらが示しているのは、少なくとも二十一世紀半ばまでの核兵器固執政策の具体策を米国が持っていることです。
NPRは、現有核兵器の延命を図るために、全米各地の核兵器開発・製造施設の強化とともに、人材養成に力を入れる必要を強調しています。これが「新三本柱」の第三の課題として掲げられている「国防生産基盤の再活性化」の意味するところです。
核兵器を管理するエネルギー省の核安全保障局と国立核兵器研究所で「先進弾頭概念チーム」を再確立し、「次世代の(核)兵器設計者とエンジニアを訓練する」ことも課題に掲げています。
NPRの新しい特徴は、核兵器とミサイル防衛(MD)を結合して使用する計画を示していることです。
その意味についてNPRは、二十一世紀の新たな敵に対処するには、核攻撃兵器に依拠した従来の抑止力だけでは不十分であり、MDなどの「積極的・消極的防衛手段」により、敵の攻撃を思いとどまらせ、「抑止の失敗」に対する保険をかけることができると述べています。
MDは敵側が先制攻撃し、そのミサイルを迎撃するシステムであるかのように宣伝されています。しかし、MDが配備されれば、米国側が先制攻撃しても、それに対する反撃を打破できることになります。MDは核兵器による先制攻撃も含めた、先制攻撃戦略と結び付いています。
MDは現段階では敵ミサイルに体当たりして撃墜するという構想ですが、迎撃ミサイルに核弾頭を装着する選択肢も排除されていません。国防長官の諮問機関、国防科学委員会のシュナイダー委員長は四月、ラムズフェルド国防長官が迎撃ミサイルへの核弾頭の使用を検討する研究を開始せよとの指示を出したと米紙に語りました。
MDは宇宙の独占的な軍事利用計画と深く結び付いたものであり、この面での軍事開発の進展に伴い、核兵器に新たな役割が与えられる可能性があります。戦略核兵器を管理する戦略軍と、弾道ミサイルや衛星を運用する宇宙軍が近く統合されるという動きも出ています。