2002年7月22日(月)「しんぶん赤旗」
東京都福祉局が設置した二つの委員会が、都立福祉施設からの全面撤退、民間社会福祉施設への人件費補助の廃止を相次いで打ち出しました。老人医療費助成・福祉手当の廃止、シルバーパスの全面有料化、都立病院を半減させる統廃合計画などに続くもので、都民の命やくらしを守る制度や施設の切り捨てを次々すすめる石原都政に、都民から大きな批判の声が上がっています。(東京都・長沢宏幸記者)
「都立福祉施設改革推進委員会」(座長・北沢清司高崎健康福祉大学教授)は六月二十七日、東京の福祉を支えてきた柱の一つである都立福祉施設を、「廃止」か「民間移譲」するという報告を出しました(対象施設は一覧表参照)。続いて「福祉サービス提供主体経営改革に関する提言委員会」(委員長=高橋紘士立教大学教授)が七月二日、「中間提言」を発表し、民間社会福祉施設にたいする人件費補助(今年度百四十億円)の廃止とその他の都独自補助の全面的見直しを打ち出しました。
今回の二つの提言が実行されれば、都民が革新都政とつくりあげた、全国に誇る福祉の諸制度が根こそぎにされます。
都立の福祉施設からの全面撤退は、介護保険導入後入所希望者が急増し、二万五千人以上が入所待ちしている特別養護老人ホームの大幅増設が求められている現状や、児童虐待が深刻化しているなかでいっそう都として拡充が求められている児童養護施設、整備が急がれている障害者施設などの実態からみても、逆行するもの。手厚いサービスが行われている都立施設を廃止することで、東京全体の福祉を引き下げることにつながると指摘されています。
公立施設と民間社会福祉施設の職員給与の格差をなくす公私格差是正制度は、都民の受ける福祉に民間と公立で格差があってはならないという高い福祉理念のもと、革新都政時代に作られた制度です。それまで低賃金と劣悪な労働条件のもとに置かれていた民間福祉施設の職員の給与と労働条件を引き上げ、国基準を上回る職員配置や利用者サービスに補助する都加算事業と合わせ、利用者にたいする福祉サービスを飛躍的に向上させました。
ところが、都民の大きな反対を押し切り両事業は廃止され、二〇〇〇年一月から「民間社会福祉施設サービス推進費補助」に移行されました。経過措置が終了し、今年から本格実施されたばかりのその制度を、人件費補助部分は廃止、都加算部分の補助についても抜本的に見直すといい出したのです。
二つの委員会の報告・提言の内容が明らかになるや、都内の福祉関係者、障害者、高齢者からは怒りと反対の声が急速に広がりました。
障害者と家族の生活と権利を守る都民連絡会の市橋博事務局長は、「都直営の障害者施設は、職員の配置など条件面で国基準を大きく上回り、障害者の生活と権利を守ってきた。報告をみて背筋が寒くなったのは私だけではない」といいます。
都内の私立保育園経営者でつくる東京都私立保育園連盟(三百五十九園)の川崎ひろし会長は本紙に、「東京の高い保育水準を支えてきた独自補助を都が削れば、東京の私たちだけでなく、補助カットが国の流れになるなかで、全国に影響するのではないか」と語りました。
東京都保育問題協議会、福祉保育労組東京地方本部など多くの団体が都、都議会各会派に申し入れし、各地で草の根の対話も広がるなか、「東京の福祉を大後退させるな」という世論が広がっています。
二つの委員会を設置し、報告・提言の路線を引いた当事者である前川燿男前福祉局長は、二〇〇一年四月の福祉局幹部職員連絡会で、「行政の保護、補助にあぐらをかいて、その補助が減ったからけしからんと声を上げるだけの人たちは、消えていただきたい」という暴言を吐き、都庁内からも批判の声があがっています。
石原都政は、問答無用で福祉切り下げをすすめようとしています。“都の直営施設や社会福祉法人は時代遅れ”だというのが、今回の福祉大後退の理屈。福祉の分野に企業をどんどん参入させ、福祉を市場化するためにじゃまになる都立施設を廃止し、補助もなくす、あわせて都の負担も大幅に減らすというのです。
【特別養護老人ホーム 2施設】 板橋ナーシングホーム、東村山ナーシングホーム(廃止に向けて順次規模を縮小) 【養護老人ホーム 4施設】 板橋老人ホーム(廃止)、東村山老人ホーム(順次規模を縮小)、吉祥寺老人ホーム、大森老人ホーム(早期に民間移譲) 【軽費老人ホーム 1施設】 むさしの園(早期廃止)
【都外の児童養護施設 5施設】 船形学園、八街学園、勝山学園、片瀬学園、伊豆長岡学園(規模を縮小し漸次廃止)、【都内の児童養護施設 5施設】 中井児童学園、品川景徳学園、石神井学園、小山児童学園、むさしが丘学園(民間移譲)
【知的障害者更正施設 8施設】 七生福祉園、千葉福祉園、八王子福祉園、小平福祉園、日の出福祉園、町田福祉園、練馬福祉園、調布福祉園(小規模施設は順次民間移譲、大規模施設は規模を縮小し民間移譲)、【知的障害者施設3施設】 七生福祉園、千葉福祉園、東村山福祉園(規模を縮小し民間移譲) 【身体障害者療護施設 3施設】 日野療護園、多摩療護園、清瀬療護園(民間移譲)、【身体障害者更正施設3施設】 視覚障害者生活支援センター、聴覚障害者生活支援センター、清瀬園(民間移譲)、【身体障害者授産施設 4施設】 練馬就労支援ホーム、大泉就労支援ホーム、清瀬喜望園、用賀技能開発学院(廃止または施設種別変更や統合)
1950年 国の基準に対し都として独自にサービスを引き上げるために補助をする「社会福祉施設都加算制度」を創設。
1971年 民間施設の人材確保を支援し、公立施設とのサービス格差を是正するための「民間社会福祉施設職員給与公私格差是正事業」を始める。
1999年2月 都が都加算制度、公私格差是正事業を廃止し、「民間社会福祉施設サービス推進費補助」に移行、補助額を大幅にカットする案を発表。福祉施設関係者の大きな反対運動で、都は4月からの実施を断念。都社会福祉協議会との協議を経て2000年1月から「民間社会福祉施設サービス推進費補助」を実施。
2000年7月、8月 都が「財政再建推進プラン」、「福祉施策の新たな展開」を発表。高齢者や障害者の医療費助成、福祉手当、シルバーパスなどの切り捨てを打ち出す。
2002年2月 都が都立福祉施設の廃止、民営化推進を基本方針とする「TOKYO福祉改革 STEP2」を発表。
同年6月27日 「都立福祉施設改革推進委」が、都が直営の福祉施設運営から全面撤退する報告書を発表。
7月2日 「福祉サービス提供主体経営改革に関する提言委員会」が、「民間社会福祉施設サービス推進費補助」を改悪する提言を発表。
日本共産党都議団は、福祉充実という都の責任を投げ捨て、東京の福祉を支えてきた二つの柱を根本から掘り崩すものだと厳しく批判、都の方針として具体化しないよう求めています。
石原都政が「都市再生」と称して大型開発にはばく大な税金をつぎ込みながら、この三年間で福祉・医療予算を百十四億円も減らすという全国の大都市をかかえる府県でも例をみない異常な姿になっていることを明らかにし、お金の使い方を改めて、福祉、くらしを守りながら、財政も建て直す道筋を示して、都政の転換を訴えています。