2002年7月12日(金)「しんぶん赤旗」
「石綿(アスベスト)は有害な発がん性物質です。そのために夫が亡くなったことを認めてほしい」。千葉県船橋市在住の渡辺アキ子さん(60)は、一九九二年に肺がんで亡くなった夫の信義さん(当時五十二歳)の労災認定を求めてたたかっています。夫が亡くなって十年。アキ子さんは「人の命の重さと、人間であることを認めさせるたたかい」を続けています。
信義さんは、テレビのブラウン管用ガラスをつくる旭硝子の船橋工場で三十四年間勤務。ガラスの原料を溶かす工程を担当していました。石綿は高熱に強く、作業用の手袋やベルトコンベヤー、ゴムホース、配管など、いたるところに使われていました。
石綿は大量に吸い込むと石綿肺や肺がんなどの病気をおこします。しかし、会社は危険性を知りながら、従業員になにも知らせず放置していました。「夫は体が丈夫だったのに、石綿の粉じんにまみれて働きつづけ、入院後はわずか二週間で亡くなったんです」とアキ子さんはいいます。
石綿と肺がんには因果関係があり、夫の死は職場環境に原因があったのではないかと疑問を抱いたアキ子さん。県内の職業病対策連絡会に相談しました。
職対連の要請で旭硝子の労働者らも立ちあがりました。「自分も石綿を吸っている。渡辺さんだけの問題ではない」。九五年、二年の準備期間を経て「旭硝子労災認定を勝ち取る会」(十五団体、二百六会員)が結成されました。
会の支援を受け、アキ子さんは船橋労働基準監督署に信義さんの労災申請をしました。じん肺専門医は石綿による肺がんという診断でした。しかし、同労基署が依頼した医師の意見で、同労基署は石綿との因果関係は認めず、労災認定は却下。審査請求、再審査請求ともに棄却されました。
これを不服として九九年、アキ子さんは行政訴訟を千葉地裁に提起しました。
職場で石綿を吸って肺がんや悪性中皮腫で亡くなった人は二〇〇〇年で全国で二千人を超えます。労災として認定されたのは、そのわずか2%前後。同会事務局長の高橋弘さんは「会社は創業以来、長年石綿を使用しており、被害者が増えています。渡辺さんが認定されれば大きな社会問題になる」と話します。
信義さんが亡くなって十年の今年二月十九日。アキ子さんは命日を選んで「石綿の有害性を知っていながら従業員に対して安全配慮義務を怠った」として損害賠償請求の訴えを同地裁に起こしました。行く先々に署名用紙をもって「公正な判決で労災認定を」と支援を訴える日々です。
旭硝子労災認定を勝ち取る会は十三日、船橋市勤労市民センターで二つの裁判勝利に向けた総会を開きます。会の連絡先は047(447)3479。